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親子間での会社支配権をめぐる争い

この例は、5人兄弟が親から株式を引きついだケースである。長男が社長を親から引継ぎ、20年間経営を切り盛りしてきた。厳しい環境下にも拘わらず、時宜にあった戦略変更を進め、経営の悪化を避けてきたにも拘わらず、長男以外の兄弟に結託されて、社長及び取締役から解任されたという事例である。

■1.親から長男への事業承継

X社は、1950年、父親が創業し、東京の下町で大手メーカーの下請けとして部品加工を行ってきた会社である。創業時の株主構成は、父親が80%、母親が20%という形だった。夫婦には、5人の子どもがおり、その構成は、上から順番にA男、B女、C男、D女、E男という順番だった。A男、C男、E男は、全員高校を卒業すると、父親の経営するX社に入社した。当時は、X社の景気も良く、売上は伸び盛りで、男手がほしかったので、3人は何の迷いもなくX社に就職した。

父親は、町内会の野球チームのピッチャーを務めていたので、子どもが生まれると町内会で少年野球チームを作り、3人の男の子にも野球を教え込んだ。A男、C男、E男は、その野球チームに参加し、仲良く育った。
女の子であるB女、D女は、高校を出て、X社の手伝いをしていたが、20歳になると、縁談がまとまり、嫁に行った。
1990年には、父親が脳溢血で死亡。すでに、副社長となっていたA男が社長の座を継いだ。父親は、生前株式を子どもたちへ全く譲渡していなかったので、死亡時点で80%を所有していたので、その株は5人の子どもに平等に16%ずつ相続された。

1995年には、母親がガンで死亡。母親が持っていた20%の株は、4%ずつ5人の子どもに分け与えられた。
こうして、A男、B女、C男、D女、E男の5人が、X社の株式をそれぞれ20%ずつ持つことになった。
経済環境の変動はあったが、X社が持っていた特異な技術と経営の才覚に優れたA男の即断即決の経営判断のお陰で、X社は、その後20年間順調に経営を続けることができた。しかし、A男は、C男、E男の意見を聞くことはなく、まったくの独断で意思決定をするというスタイルを取っていたため、A男とC男、E男との間には隙間風が吹いていた。
2015年には、A男の65歳の誕生日が来た。世間なら、もう引退の年齢である。

ところが、A男は一向に引退しようとせず、C男やE男に社長の座を譲ることは、まったく考えていないようである。C男とE男は、取締役会の場で、A男に社長の座を譲るように促したが、A男が全く聞き入れようとしなかった。
C男とE男にすれば、これは面白くない。ただ先に生まれたというだけで、何故A男が社長になり、いつまでも居座り続けるのか。給与を見ても、社長のA男は150万円、C男は専務で120万円、E男は平取締役で100万円と大きく差がついている。
女に生まれたB女、D女は、もっと不満がたまっている。二人は、X社の顧問になっているが、年額10万円の給与だけだ。A男のポリシーで無配当だから、株主としても一銭のお金も入ってこない。

 

■2.4兄弟の結託

2015年1月に、取締役会が開かれた。この場で、C男とE男から「A男は、今年で65歳になり、親父が死んだのと同じ年になるが、引退は考えていないのか。」という質問が出た。A男は、その場で、「自分は当面辞めるつもりはない。80歳まで経営を続けるつもりだ。」と回答した。
さらに、C男は、「B女、D女が不満に思っているから、配当をしよう。」と提案したが、A男は即座に「配当する必要がない。会社は資金が必要だ。」の一言で片づけられてしまった。
これを聞いたB女、D女は、憤慨する。20%の株式を持っているのに、何のリターンも得られない。A男は、毎年1800万円の給与をもう20年も取り続けているのだから、3億6000万円もX社からもらっているというのに…。なんという不公平なことなのだ!

3月の日曜日、B女、C男、D女、E男の4人は、A男に内緒で会合の場を持った。B女からのヒステリックな発言で、話が始まった。
「X社が儲かっているのに、配当を全くしないというのはおかしいじゃないの。私もD女も、X社から年に10万円しかもらっていないのよ。」
C男は、これを受けて言った。
「A男の経営のやり方は、独裁的だ。自分たちの言うことは一切聞かず、なんだって一人で決めてしまう。それにA男は、もう65歳なのだから、引退するべきだ。」
周りを見ると、全員がうなずいている。

今度は、E男が言った。
「次の株主総会では、取締役の改選があるから、その時にA男の再任に皆で反対しよう。その代わりに、B女とD女に取締役になってもらおう。その上で、これまでA男がもらっていた給与をB女とD女の二人に分けて出したらいいじゃないか。」
あっという間に、4人の総意はまとまった。

 

■3.株主総会

X社は3月決算だから、定時株主総会は6月末までに開かなければならない。
X社では、取締役の任期は2年となっていて、たまたま2015年6月の株主総会でA男、C男、E男の再任の決議をすることになっていた。
6月28日午前11時、定時株主総会が開かれた。A男、B女、C男、D女、E男の5人の株主が出席している。
例年なら、A男が議長を務め、決算承認議案と取締役再任決議を10分ほどで終わらせ、その後、年に一度の兄弟5人集まっての食事会をX社近くの日本料理屋で開く。
今年も、定時株主総会が始まった。と言っても、かなりインフォーマルである。

A男が、「それでは2015年の株主総会を始めます。会社定款の定めにより、代表取締役社長の私が議長を務めます。今年の議題は、決算承認議案と取締役再任決議の2つです。まず、第1号議案の決算承認ですが、お手元にお配りした決算書の通りです。経営環境が厳しく、当期利益が3000万円と、昨年から30%落ち込んでしまいました。その他の細かい状況は、後で決算書に目を通して置いてください。では、これはよろしいでしょうか。」
C男が、「これは皆問題ないね。」と言うと、全員がうなづいているので、可決された。
A男は、淡々と、第2号議案に移った。「これも、例年通りですが、私とC男、E男の取締役としての任期が本日をもって終了しますので、再任の決議を求めるものです。よろしいでしょうか。」

突然、B女が立ち上がり、「私は反対です。A男は、もう65歳ですから、引退すべきだと思います。」と言う。
A男が、B女に、「何を言い出すんだ。俺がいなければ、この会社はつぶれてしまうぞ。会社経営もしたことないくせに、勝手なことを言うな。」と反論した。
しかし、今度は、C男が、「親父も65歳で死んでしまい、A男は40歳で社長の座を受け継いだじゃないか。もう、25年だぞ。役員の定年は、65歳ということにしようじゃないか。もう、A男は十分社長をやったんだから…。」と言う。

A男は、「E男、お前はどう思うんだ?」と聞くと、
E男は、「俺もC男の言うことに賛成する。」と答えた。
D女も小さな声で、「A男の再任決議には反対します。C男、E男には賛成します。」と言う。
A男の顔はみるみる真っ赤になり、「わかった。お前らは示し合わせたな。俺を首にするつもりなんだな。でも、そうしたら、取締役が一人足りなくなるぞ。どうするんだ。」
C男が、「B女を取締役にすればいいじゃないか。今、ここで決を採ろう。」

勿論、株主4名の賛成でB女が取締役に選出された。
この後、B女、C男、E男の4名の取締役で取締役会が開かれ、C男が代表取締役に選任された。C男は、その後、臨時株主総会を開き、D女も取締役とした(手続き上、定時株主総会での取締役選任決議について人数を増やすことができなかったため)。こうして、めでたく、B女、C男、D女、E男の4名の取締役体制となり、X社は新しい経営体制の下で一歩を踏み出した。

 

■4.本事例の教訓

X社のように、創業者の親が死亡後、会社の株式が兄弟間に分散して相続されるということが多い。その結果、社長になっている長男も、過半数の議決権を持たないということになる。すると、社長は他の兄弟から解任されるという危険に直面することになる。

勿論、お互いの仲がよい限り、こんなことは起こらない。ただ、どこかで兄弟間に隙間風が吹き始めると、一気に問題が顕在化する。本事例のように、あっという間に、代表取締役が解任されてしまうのである。
代表取締役についていたA男の立場から言えば、親からの相続時に、親の他の財産をすべて他の兄弟に取得させてでも、株式だけは、自分で50%超相続すべきであった。
他の兄弟からすれば、これでよかったということになる。なぜなら、本事例のように株式が分散されていることで、兄弟のうちの一人の独断専行にストップをかけられるのだから…。
ただ、今度は、C男が、A男と同じ立場に立つことになるから、C男の立場からすれば、何とかして、他の兄弟の株式を買い集め、自分が50%超をコントロールできるように持って行かなければならない。
既に亡くなっている父親は、生前、自分の株式をA男に集中的に贈与し、自分が死んでから、本事例のような問題が起こらないよう準備を進めておくべきであったのである。

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