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後継者のいない会社をどのように廃業するか?

この数年で、私が担当した案件で、代表者が亡くなった後、社内に後継者がおらず、かつ、相続人が相続放棄したため、会社が破産や清算に追い込まれた例がある。なかには、本業はしっかりとしており、誰かがやってくれれば、会社として存続できたと考えられるものもある。こうした会社が、破産や清算に追い込まれることは社会的に大きな損失だ。

にもかかわらず、なぜそうなってしまうかをます見ていこう。

 

■1.株式が宙に浮く

中小企業では、代表者は銀行からの借入金の連帯保証を行っている。
例えば、1億円の借入金があり、それを代表者が連帯保証しているとしよう。
経営がうまく行っていて、毎年手堅く利益を計上、自己資本も充実しているという会社なら、代表者の子どもが継がなくても、社内の誰かが継いでくれる。あるいは、M&Aで誰かが買ってくれる。こうなれば、相続人も安心して、代表者の財産を相続できる。相続人は、連帯保証を相続したとしても、会社の経営は安定しており、保証が実行されることはないから、連帯保証は負債とならない。

ところが、この会社が債務超過、現金も少なく、借入金の返済も滞っているという場合ならどうだろう。代表者の子どもは、継ぎたくない。社内でも、継いでやろうという人が見つからない。当然、売ろうとしても無理。相続人は、連帯保証が実行される危険を感じるので、相続放棄を選択する。
こうした場合には、会社はいずれ破産、清算をせざるを得なくなる。こうして、会社をたたんでいくことになるのであるが、それを進めていくためには、亡くなった代表者に変わる新代表者を選任する必要がある。

 

■2.相続放棄後の代表者の選任の法的手続き

ある会社が取締役会設置会社で取締役を3人以上と定款で定めていたとしよう。普通の中小企業はこうなっている。
ところが、代表者が亡くなったから、取締役は2名になり、1名の欠員が生じている。この1名を補うためには、取締役を選任する株主総会を開かなければならない。
この時、問題となってくるのが、株主総会の定足数だ。会社法309条1項は、「株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」と定めている。
つまり、定款に別段の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主の出席が必要となる。
しかし、代表者がほぼ100%に近い株式を持つ多くの中小企業ではこの要件を満たさない。そこで、会社法309条1項のいう「別段の定め」があるのか、ないのかが重要なポイントになってくる。

多くの会社では、「株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合のほか、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」と定められている。若干意味が不明であるが、これが定足数を排除する意味を持つと解されている。
本来、「株主総会の決議は、会社法309条1項の規定にかかわらず、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」とすればいいのだが、昔から上記の記載例のような言葉遣いが行われてきた。

従って、このような定款の規定を持っている会社なら、たとえ1株でも亡くなった代表者以外の者が株を持っていれば、株主総会を開き、取締役の欠員を補充することが可能となるように思えるが、ここで会社法第341条が出てくる。
すなわち「会社法第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。」

つまり、役員の選任、解任には、株主総会において、最低限3分の1の定足数が必要だということになるので、代表者以外の課主が3分の1以上の割合を持っていることが必要となるが、たった3分の1の株式を他の株主が持っていさえすれば、取締役の欠員補充が可能となる。
こうして取締役の数を3名に復帰させることができれば、亡くなった代表者の代わりの代表取締役を取締役会を開いて選任することが可能となる。会社は、代表者がいなければ、取引先との売買契約の締結、銀行借り入れも困難となってしまうので、代表者を補充することは、会社の経営を継続するために必須である。

しかし、代表者が会社の株式の67%を持っていた場合は厄介だ。相続人が相続放棄をしてしまうと、株主総会を開いて取締役の欠員補充をすることすらできなくなってしまう。
だから、こうしたリスクを避けるために、代表者は自分ひとりで株式を66%以上持たない、妻でも子どもでも、従業員でもいいから、株主を複数化しておくことが必要である。
また、定款に定足数について何も定めていなければ、自動的に会社法の規定が適用され、過半数の株主の出席がないと、株主総会を開くことができなくなってしまうので、経営者の方は、定款の規定を見直し、取締役の選任・解任についての定足数を「3分の1以上」と変え、株主総会決議で取締役の欠員補充ができるようになっているかどうかを、今のうちに確認しておく必要があるだろう。

 

■3.代表者の人選

上記のような手続をふめば、代表者を選任できるのであるが、あと一つの問題は引き受けてくれる人がいるかどうかだ。
破産や清算をしていく会社の代表者になるというのは、普通の人から見ると、何か債務を負わせられるのではないか、予想もしないリスクを背負い込むのではないかと荷が重い。
法律上は、新代表者は連帯保証をするわけでもない。新代表者は適正に会社の資産を売り払い、債務を弁済していけば、何らの債務を負わせられることもない。

また、こうした手続きの際には、会社で弁護士を採用して手続きを進めさせればよいので、代表者自らが何かを行わなければいけないものでもない。
私もこうした相続放棄後の破産のケースを扱っているが、以上のことを説明しても、なかなか社内からは引き受けてくれる人が出てこない。結局、自分の知っている経営コンサルタント等にお願いをして、会社の破産・清算手続き期間の代表取締役を引き受けてもらっている。

 

■4.代表者が決まった後の手続き

こうして、代表者が決まってしまえば、後は粛々と会社の資産を処分し、できるだけ債務を弁済していくだけである。
まずは、在庫を売り払う手を探す。小売りをしている会社なら、セールでできる限り売りつくす。それでも残ったものは、競合でも誰でもいいが、どこか業者を探してきて売り払う。製造業の会社、卸販売の会社の場合も、どこか買い取ってくれる業者を探してきて、売れるものは売り払う。

会社が車やパソコン、机、いす等の資産を持っているのであれば、それもできる限り売り払う。いつくかの業者に当たり、一番高い値段をつけてくれたところに売っていく。
会社が本社の事務所を借りているという場合には、賃貸借契約を解除し、決まった日までに退去する。通常の賃貸借契約では、6か月予告という条件が付いている。従って、仮に来月末で出ても、さらに5か月分の家賃を支払わなければならない。
また、原状復帰義務も定められているので、事務所を退去するときは、借りる前の状態に戻して返さなければならない。事務所に多くの造作を施していたような場合には、この費用が多額に上ることもある。

残ったお金で、従業員の給与を支払う。滞納している税金等があれば、それも支払う。次に、仕入れ債務も支払う。最後に、銀行からの借入金が残るが、多くのケースでは、これをすべて返すことは不可能だ。だからこそ、相続人が相続放棄をし、亡くなった代表者の財産を放棄しているのである。
このように債務を全額弁済できない状態であることが確定すれば、裁判所に破産を申し立て、公正な手続きのもと、会社を終わらせるしかない。
破産を申し立てるには、代表者から委任状をもらい、私が代理人となって裁判所へ申し立てる。申し立てる時点で、会社の謄本、税務申告書2期分、賃貸借契約書、預金通帳等々を一緒に提出しなければならない。

これをかき集めるのがまた一苦労である。会社にしっかりした経理や総務の担当者が残っていれば大丈夫なのだが、会社が傾きかけたところでやめていってしまったり、零細企業では、そもそも経理や総務の担当者がいなかったりという場合が多い。
ともあれ何とか破産申し立てをし、裁判所が管財人を指名してくれれば、後は管財人が処理をしてくれる。
東京地裁では、資産の処分、事務所の片づけ、債務の弁済等はできるだけ破産申し立て代理人の段階で進めることになっているので、それがスムーズに終わっていれば、管財人はその手続きが適正に行われたかどうかをチェックするだけということになる。まだ、会社に財産が残っていたりすれば、管財人が処分をしてから、すべての手続きが終了する。

こうして、後継者もなく、相続人も相続放棄をしてしまい宙に浮いた会社の破産・清算手続きが終了する。中小・零細企業の経営者の高齢化と後継者不足が続く今日、ここで紹介したような会社のたたみ方が増えてくるものと思われる。

©2017 青山東京法律事務所.
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