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事業承継によって家族の資産管理会社をめぐる紛争を紹介

渡辺家の事業承継

渡辺家は、3代続く資産家だ。祖父Aは、第二次大戦前の1930年、新潟でオーディオ機器の製造事業のX社を立ち上げ、戦後の高度成長の波に乗って大きく売り上げを伸長させた。Aには一人息子のBがおり、親父譲りの機械いじりが好きな男だった。1940年、高専を卒業すると、すぐに会社に入り、オーディオ機器の製品開発に没頭した。
1970年には、Bが開発した新製品のお陰で会社は最高益を上げ、Aはこれを花道に引退を決めた。そして、BがAを継いで社長になった。

 

1.紛争になるまでの流れ

Aは、X社経営をする傍ら、X社で稼いだ金を資産管理会社Y社に投下し、新潟と東京の不動産に投資し始めていた。不動産の賃貸経営を自分のポートフォリオに取り込むことで、X社の経営が傾いた時にも、渡辺家の家族が不安なく暮らせるようにするためだった。Y社の経営も、高度経済成長と不動産ブームに乗って、順調に拡大した。
Aは、新潟港の土地を買い占め、Y社の傘下に倉庫会社のZ社を設立した。Z社は、新潟港最大の倉庫会社へと成長していった。

BがX社とY社、Z社の社長になってからも、好景気の波に乗り、両社の業績は順調に推移した。
Bは、3人の年子の男の子、C、D、Eに恵まれた。Bは、3人の子にそれぞれ別の会社の経営を引き継がせてやりたいと思い、X社とZ社に加えて、もう1社の経営を始めたいと思っていた。
そして、Bは、当時成長し始めたカラオケ市場向けの機器を製造する長野県諏訪市のW社を買収した。W社は、その後カラオケ市場の拡大の波に乗って、大きく成長していった。
1967年には、Cが大学を卒業して、X社に入社。
1968年にはDが大学を卒業し、W社に入社。1969年には、Eが大学を卒業して、Z社に入社した。

その後、C、D、Eは、それぞれの会社の経営をBから引継ぎ、社長に就任した。Bは、子どもが若く、X社、W社,Z社の株価評価が低いうちから、C、D、Eへの株式の譲渡を進めていたので、Bが2000年に亡くなった時にも、特に相続問題での苦労はなかった。
一方、資産管理会社のY社については、Bは、50%の株式をCに、30%をDに、20%をEに譲渡していた。長男、次男、三男で取得する株式に差をつけたのだった。

 

2.Cの希望をくじく税金問題

2017年。すでに、C、D、Eは、72歳、71歳、70歳となっている。それぞれ子どもが3人ずついるのだが、Cは、X社の本社が東京に移転したことから東京に住み、DはW社の本社のある諏訪市に、Eは新潟県に住んでいたことから、お互いの家族関係は徐々に疎遠になっていた。
Cは、70歳を超えた時から、自分の死後の相続のことを考え始めた。
「X社、W社、Z社は、C、D、Eがそれぞれ株を持っているから問題ないが、Y社は3人で株を分けて持っているので、自分たちの子どもの代に相続していくとなると、合計9人の株主ということになり、株式が分散して、意思決定もままならなくなる。Y社は、自分たち兄弟が生きている間に清算し資産を分けておかないと、後で子どもたちの争いの種になるだろう。」
Cは、どのようにD、Eとの交渉を進めたらいいか、顧問弁護士のαに相談することにした。

 

3.αの提案

Cはαを事務所の呼び、相談を始めた。

「私たち兄弟も高齢になってきています。そこで、渡辺家の財産の子どもたちの代への相続と事業承継がどうやったらスムーズにいくか考え始めたのです。問題は、Y社で、今は私が50%、弟のDとEが30%と20%の株を持ち、それなりに仲良くやっています。しかし、我々兄弟にはそれぞれ3人の子どもがいますので、次の代になると、全部で9人の子どもに株式が分散して相続され、意思決定もできなくなるのではないかと心配しています。早いとこと清算してしまった方がいいと思うのですが、どうやったらいいのでしょうか。」

α「そうですね。DとEは、清算するという案に賛成しているのですか。」
C「いや、DはY社を使ってハワイの別荘を取得しています。Eは、Y社の金で息子のE1の自宅を購入していますから、今Y社がなくなってしまうと困るのだと思います。私はそういうことはしていないから、Y社から毎年わずかばかりの配当をもらっているだけで、全然メリットがありません。だから、早く清算してしまいたいのです。」

α「それは困りましたね。Y社の株式の保有割合は、Cさんが50%、DとEで残りの50%を持っていますから、DとEが賛成してくれないと清算することもできません。」
C「私としては、Y社が持っている新宿のビルを買いたいという不動産業者がアプローチしてきましたので、そのビルを10億円で売り、その売買代金をすべてもらえれば50%の株式は放棄してもいいと思っているんですが、そうはいきませんか。」

α「そうですね。それも一案ですが、税金の問題がありますね。Y社でそのビルを売ると、法人税がかかります。そのビルは40年前に建てられたもので、その取得コストは相当低いでしょうから、10億円のほとんどに税金がかかってきます。法人税率を35%として、3億5000万円は税金に持って行かれ、残るのは6億5000万円です。」
C「そんない税金がかかるのですか。」

α「それだけでは終わりません。その6億5000万円の資金を使って、C様の持株を買い取ってもらうことにした場合には、それが自社株買いとなります。自社株買いの場合には、その株数に対応する資本金を超える部分は、みなし配当課税と言って、総合課税になります。Y社の資本金は、もともと1000万円しかありませんから、C様の持株の資本金相当部分は、その50%の500万円だけです。ですから、6億4500万円が総合課税の対象となってきます。今のC様の所得に6億5000万円を加えたものが、C様の今年の合計所得ということになってしまいますので、ほとんどが最高税率の55%の対象となってしまうのです。」
C「となると手取はどうなるのかね。」

α「6億4500万円の45%が手取ということになりますから、2億9000万円になります。」
C「10億円が2億9000万円に減ってしまうのですか。そんな馬鹿な…」

α「ええ、残念ながら、そういうことになります。」
C「もう少し手取を増やす方法はないのですか。」

α「C様のお持ちのY社の株式をD様とE様に買い取ってもらえば税金がだいぶ違ってきます。その場合には、税金は20%で済みます。D様、E様ではなく、W社かZ社が買い取ってくれる場合も同じです。」
C「そうか。それなら、DとEに、俺の持株を10億円で買い取るように言ってみることにしようか。」

α「はい、20%の課税で済むのですから、5億円で買い取ってもらっても、手取りが4億円となるので、その方がずっと得になります。」

 

4.結末

Cは、DとEを呼んで、Y社を清算すべきであること、自分としては、新宿のビルを打った資金の10億円だけ取得できれば、株式はふたりに譲ってもよいと考えていることを伝えた。
DとEは、Y社に自分たちの資産を持たせているので、清算には反対である。さらに、Y社に毎年1億円の収入をもたらす新宿のビルの売却にも反対であった。
DとEは、自分たちの弁護士、税理士と相談した後、Y社での自社株買いで5億円を支払うことを提案してきたが、所得税の問題からCは拒否した。Cは、DとEに対して、W社かZ社で買い取るように依頼した。
DとEは、検討の結果、これを受け入れることとし、C、D、E間の相続・事業承継問題は平和裏に解決した。
Cが払う税金も1億円で済み、4億円が手取りとなった。

 

5.教訓

上記の例を見てもわかるように、相続、事業承継問題は、大きな税金問題を含んでいる。ただ、株式が親から子の代に引き継がれればよいというものではなく、その引継ぎの過程で財産が減ってしまわないように、税金の支払いを最小に抑える手立てを考えなければならないのである。
こうした問題を抱える方は、弁護士、税理士等、税務に詳しい専門家のアドバイスを求めることをお勧めしたい。

©2017 青山東京法律事務所.
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