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事業承継における、親から子への株式返還請求が元の紛争事例

今回は、事業承継における、親子間の紛争事例

この事例は、会社の土地が再開発にかかり財産が増えた結果、親が子に贈与していた株式の取り戻しを迫ったというものである。そこで、問題となったのが、株券発行会社での株券を発行しないままでの株式の贈与の有効性と時効取得の問題だった。

■親から子への株式の贈与

今から13年前2004年の3月のある日、A社の前年の12月決算の結果を報告するために、子Y1は、顧問税理士のBと一緒に、親Xを尋ねた。

A社の株式は、この当時、Xが60%、Y1が40%を所有していた。

Xは、3年前の2001年に代表取締役を降り監査役に就任、Y1に代表取締役の座を譲っていた。Y1としては、早くXの株式の譲渡を受け、株式の支配権においても、自分が過半数の株式を握って、経営を差配したいと考えていた。

Bからの決算説明が終わると、Y1はXに株式の譲渡の話を切り出した。

「親父、俺も代表取締役になって3年経った。A社の経営の方も、今B先生が説明してくれたようにうまく行っている。そろそろ、株式を俺に譲ってくれないか。」

数年前にXの妻、Y1の母が亡くなり、Y1がXの面倒をよくみた結果、XとY1の親子仲は緊密になっていたので、Xは二つ返事でこの申し出を受け入れた。
「ああ、いいぞ、確か俺がまだ6割持っていたと思うが、それをすべてお前の家族にやる。B先生、手続きを頼みます。ただ、Y1よ、俺もまだ70歳で、年金をもらっているとは言え、まだ金が必要だ。監査役としての給与50万円をおれが死ぬまで払い続けてくれ。」
Y1は、「親父、ありがとう。勿論、50万円の給与はずっと続けるよ。心配しないでくだれ。大丈夫だよ。」
こうしてXとY1の話はまとまり、Bが株式譲渡の手続きをすることになった。

Bは税理士らしく、できるだけ税金を払わずに済むようにと算段を踏み、それから5年に亘って12%ずつに分割して、Y1への株式の贈与を進めていった。
そして、5年後にはXの持株は0、Y1が100%所有する形となった。
Bは、税務申告書に添付する株主名簿の書き換えは済ませたが、株式の贈与契約書を作成せず、株券の交付も行わなかった。契約書も作成せず、株券交付を行わなかったことが後で大変な問題となる。

■再開発による会社財産の増大

A社は、東京の下町で昭和初期に創業された町工場である。大手のポンプメーカーの下請けとして、部品を製造し納品している。大手メーカーの下請けということで、受注はそれなりに安定していたものの、厳しい値引き要請を受け、A社の利益は赤字基調となっていた。
2007年に降ってわいたのが、A社が会社兼工場を構える山手線の駅前土地の再開発計画だった。不動産デベロッパーが、駅前の土地を再開発し、オフィス棟2棟と高層マンション2棟を建てるという計画をぶち上げたのだ。

再開発対象区域の住民の多くは、先代、先々代からこの土地に住んでいる人たちで、この土地に愛着を持っており、当初は再開発に否定的な意見が多かった。ところが、不動産会社の説明会に出てみると、再開発後はこの地区は近代的な高層ビルが立ち並ぶトレンディスポットに生まれ変わるという。さらに、地権者には等価交換で高層マンションの部屋をいくつか与えるという。

これまで老朽化が進んだ町工場とこれまた古い飲み屋しかなかったため、地価も安かったが、再開発を契機に地価もグンと跳ね上がることは間違いない。

2010年までに、住民の全員が賛成でまとまり、再開発計画が決まった。
それから4年。2014年にビルが完成した。今から3年前のことである。A社には、50平米のマンション3室と、70平米のマンション2室が等価交換で交付された。
Y1は、70平米のマンションの一つはXに、もう一つは自分で住むこととし、50平米のマンションは貸し出して、賃料を得ることにした。

Xは新築の高層マンションの20階の1室に、Y1は同じ棟の3階上の23階の1室に入居した。Y1は、時折Xを夕食に招待する等、仲良く暮らしていた。Xも優雅な高層マンションライフが気にいったようで、「こんな生活ができるのもお前のお陰だ。」とY1をほめていた。

■風向きの変化

しかし、そんな平和な生活は長くは続かなかった。Xには、Y1のほかに、Y2、Y3と子どもがいた。Y2は男の子で大手電機メーカーに勤務、Y3は女の子で嫁に行っていた。
Y2、Y3は、2015年の新年の挨拶に、Xを尋ねてきた。勿論、その場で、Y1とも顔を合わせた。二人は、XとY1が新築の高層マンションで優雅な高層マンションライフをエンジョイしている姿を見て、嫉妬に燃え上がった。
「お父さんはともかく、なんでY1だけがこんな生活ができるの?もともとおじいちゃんから受け継いだA社の土地のお陰じゃない。私たちにも、ここで暮らす権利があるはずよ。」
それから、Y2とY3は結託し、足しげくXの下に通うようになった。そして、Xを問い詰めた。
「Y1だけが、A社を引き継いで、メリットを受けるのはおかしいじゃない。お父さん、同じ子どもなのに、何でこんな不平等な扱いをするの。」
Xは、最初は取り合わなかったが、終いに根負けして答えた。
「わかった。Y1にどうにかできないか相談してみよう。」
Xは、「Y2、Y3にも、一部屋ずつ使わせてやろうじゃないか」とY1に掛け合ってみるが、Y1は取り合わない。
「Y2もY3もA社の仕事を引き継がず、家から出ていったのだから仕方がない。それに、もう株も全部俺のものになっているから、法律上の権利はないよ。」
そこを何とかできないのかと、XはY1に何度も掛け合ったが、色よい返事は得られなかった。

■親から子への株式返還請求

Xは、Y2、Y3に、「Y1に話しても、どうにもならない。お前たちは、家を出ていったのだから、あきらめろ。」
と言ってみたが、Y2から、こう言われた。
「おとうさんは甘いよ。Y1に株式を返せと請求すればいいじゃないの。ただの口約束なんだから。」

そこで、Xはやむなく弁護士に相談してみることにした。
近くの弁護士事務所を尋ねてみると、弁護士から色々と質問が飛んできた。

弁護士「あなたは、いつ頃Y1に贈与すると言ったのですか。」
X「ええ、2004年のことです。」

弁護士「実際に贈与が行われたのは、いつですか。」
X「それから、5年分割で行われたので、2004年から2008年までです。」

弁護士「贈与について、契約書は作りましたか。」
X「いいえ。サインした覚えはありません。」

弁護士「株券は交付したのですか。」
X「いいえ、それも覚えはありません。」

弁護士「A社は、昭和の時代に設立されているので、おそらく株券発行会社です。となると、株式の譲渡には、株券を交付しなければなりません。株券を交付していないとなると、譲渡は無効ということになります。」
X「では、全部取り戻せるのですか。」

弁護士「いいえ、そうはなりません。株式の時効取得の問題があります。民法162条で、占有の初めに善意無過失であれば、10年で時効取得できるとされており、Y1が時効取得を主張すると、10年経った分、つまり、2007年までに行われた譲渡については、時効取得が成立する可能性があります。その場合、あなたが取り戻せる株式は12%分だけということになりますね。」
X「12%だけ取り戻しても、88%対12%ではどうにもなりません。」

弁護士「はい、そうなのですが、あくまで時効取得は可能性です。占有の初めに善意無過失でなければならないのですが、当初株券の交付もなかったということになると、時効取得が認められるかどうかは裁判所の判断を待つしかありません。」
X「なるほど。そうすると、戦ってみる価値はあるということですか。」

弁護士「はい、結果は保証できませんが、勝てる可能性はあります。それでよければ、私がお引き受けいたします。」
こうして、XからY1に対する株式返還請求訴訟が提起されることになった。

■裁判所の判断

裁判所の判断は、Xの勝ちだった。
つまり、株券発行会社においては、株券の交付がないと譲渡は認められない。時効取得も株券の交付がなかったから、認められないというものだった。
つまり、XからYに譲渡された株式60%がすべてXに戻ることになる。Xが経営権を取り戻すことになったのだ。
Y1は、この判決を見て後悔した。「やはり税理士に任せたことが敗因か。会社法をよくわからない人に任せたことが原因だな。」

日本の中小企業の中には、A社のようにすべてを税理士におんぶにだっこというところが多い。経営者としては、専門家に任せておけば大丈夫だと高をくくっているが、それが致命傷になる場合がある。事業承継をする方は、株式の所有権が自分にあるかについては、細心の注意を以て確認しておくことが必要です。

©2017 青山東京法律事務所.
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