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事業承継における会社分割の活用

第三者へのM&A,従業員によるMBO等の方法により事業承継をする場合、会社の資産に計上されている経営者の自宅や車、その他の個人資産をどう処理するかが問題になってくる。第三者や従業員に会社を承継したとしても、経営者は自宅や車、その他個人資産は、今まで通り自己のものとして使い続けたいが、会社とともに譲渡してしまってはそうもいかなくなるからだ。これを可能にするのが、会社法で認められている会社分割という手法である。

 

■1.会社分割とは

会社分割とは、文字通り、一つの会社を二つの会社に分割してしまうことである。アメーバの細胞分裂みたいなものだ。
会社分割された会社(「分割承継法人」という)が、元の会社(「分割法人」という)の子会社になる場合を分社型分割という。分割承継法人の株式は、すべて元の会社によって所有されているので、親から子が生まれたような形だ。
もう一つの形が、元の会社の株主が、分割法人と分割承継法人の株式を所有するというもの。株主を親とすれば、分割法人と分割承継法人は兄弟のように、並列に並び立つ形となる。これを分割型分割という。

 

■2.非課税の適格分割とするためには厳格な要件が定められていたこと

会社分割の手続きには、債権者保護手続き等、結構面倒くさいものがあるが、会社法の規定を丁寧に読み、一つ一つやっていけば何とか実現できる。
その時、経済的に鍵になるのが税務上の取扱である。会社分割では、分割法人から分割承継法人に資産が移転するので、それが非課税扱いでできるか、課税扱いとなるかということが大きな問題になる。

例を挙げて言えば、分割法人が30年前に買った土地を持っている。簿価は1億円である。その後30年間の土地の値上がりで、現在の価格は3億円となっているとしよう。この土地を、分割承継法人が1億円のまま引き継げるのか、あるいは、3億円で引き継ぐのかという問題である。分割法人が分割承継法人にこの土地を3億円で売ったとみなされて、値上がり益2億円に対して課税をうけるとなれば大事だ。
課税されない場合を適格分割と言い、課税される場合を非適格分割というが、適格分割とするにはいくつかの条件がいる。
1で上げた親子型の分割、つまり、分社型分割の場合には、分割後もグループ関係が継続することが見込まれることが要件となる。従って、分社型分割後に分割法人が分割承継法人の株式を売却することを予定している場合には、適格分割とはならない。分割承継法人を売却する予定の場合には、適格分割とはならず、分割法人は分割承継法人の株を持ち続けなければならないということだ。

次に、1で上げた兄弟型の分割、つまり、分割型分割の場合は、分割法人の株主で分割により交付を受ける分割承継法人の株式の全部を継続して保有することが見込まれる者が有する分割法人の株式の数を合計した数が、分割法人の発行済み株式の80%以上であることが要件とされている(ただし、3で述べるように平成29年10月1日から規制が変更される)。従って、株主が、分割後に分割承継法人の株式すべてを第三者に売却してしまうということは認められていない。
このように課税のされない適格分割とするには厳格な要件が定められているので、第三者や従業員への事業承継を進める場合に、会社分割を使うことはできなかった。つまり、会社分割を事業承継の局面で活用することができないような規制が存在したのである。

 

■3.平成29年10月1日からの税制改正により、分割法人の株式売却が可能となること

これでは、会社から経営者の個人資産を切り離すことができず、事業承継が進まない。こうした問題に対応すべく、平成29年10月1日から、分割型分割の適格分割の要件が大幅に緩和される。
それは、分割型分割の場合に、分割法人の支配継続要件が削除されるという点である。つまり、これまでは分割法人の株主の8割が分割承継法人の株式を継続して保有しなければならなかったのに対し、これからは、分割法人の支配株主による支配関係継続の要件が削除されるのである。
つまり、後で分割法人の株式を売却してしまうつもりであっても、資産譲渡に課税されない適格分割を行えるようになったのである。

このメリットは大きい。経営者は、自分の個人資産を分割承継法人に切り分け、手元にある分割法人の株式を売却してしまうことが可能となった。分割承継法人の株式の獲得は、完全に非課税で行われている。その一方で、分割法人の株式の売却は、分離課税で20%の税率で済むのだから、経営者にとっては極めて有利なものである。
これまでは、会社分割を利用すると、非適格分割となり、分割時に分割法人に資産譲渡益が発生して課税された。さっきの土地の例なら、売却益2億円に対して40%の課税がされるので、8000万円の税金が発生した。
その後の株式譲渡益に対する20%課税は同じだから、今回の税制改正で純粋に8000万円を節約することが可能となったのである。

もう一つの個人資産を切り離す方法は、経営者に多額の給与、退職金を払い、税金を支払った後で、個人資産を時価で買い取るであった。多額の給与を支払えば、それは所得税の対象となり、最高45%の課税を受ける。さらに、住民税が10%載ってくるから、合計では最高55%の課税を受けることになる。

 

(例)3億円の個人資産の買取をしようと考えている経営者のケースでどれぐらいの税金の負担が必要になるか?

経営者が、個人資産3億円を買い取るため、5年後の退職時期まで年間3000万円、給与を引き上げ、最後に高額の退職金を支払うことで、買取資金の3億円を用意しようと考えたとしよう。
そこで、年収を2000万円から5000万円(給与以外に収入がないものとする)にアップさせたとしたとしよう。
この場合の3000万円のアップは、ほとんどが限界税率40%にかかる。さらに、住民税が10%上乗せされるので、合計で50%の税金を課されることになる。つまり、年間1500万円の税金のアップ、5年間で7500万円の負担増となり、手元に残るのは7500万円に過ぎない。
となると、退職金で何とか2億円の資金が手元に残るようにしなければならない。そこで、税金を考慮して3億円の退職金を支払ったとしよう。

30年勤続で、3億円の役員退職金をもらったとすれば、控除額は1500万円となるから、課税対象額は2億8500万円。その2分の1の1億4250万円に課税されるので、1億4250万円×45%-4,796,000円=59,329,000円が所得税額となる。10%の住民税がかかるので、さら1425万円が課税される。

したがって、3億円-5932万円-1425万円=2億2643万円が手取となる。

これで何とか3億円たまったが、ここまでに経営者が支払った税金の合計は、7500万円+5932万円+1425万円=1億4857万円である。
こうして経営者は会社から3億円の個人資産を買い取ることになるのだが、この個人資産の会社側での簿価が1億円、時価が3億円だから、会社側には2億円の売却益が生じることになる。
法人税の税率40%を仮定すると、会社の売却益に対しては、8000万円の課税がなされることになる。

つまり、経営者の個人資産を切り離すため、個人と会社の合計で1億4857万円+8000万円=2億2857万円の税の負担が生じたということになる。
以上をまとめて比較してみると、平成29年10月1日までの会社分割なら8000万円、個人資産の買取なら2億2857万円、平成29年10月1日以降の会社分割なら0という信じられないほど大きな差となる。

その上、平成29年10月1日までの会社分割なら、会社資産は8000万円減少、経営者による個人資産の買取だと、会社資産は2億3000万円減少(5年間3000万円の給与引き上げ、3億円の退職金支払い、8000万円の譲渡所得税、経営者からの個人資産売却代金3億円取得)しているのだから、株式の譲渡価格にも大きな悪影響を与える。
以上見て来たように、平成29年10月1日以降になれば、経営者の個人資産の切り離しには、会社分割が最善の道であることは明白であり、これを利用しない手はないのである。

©2017 青山東京法律事務所.
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