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事業承継における税制改正と活用メリット

事業承継税制は、平成21年4月から施工された。その前年に施行された経営承継円滑化法を受けて、税制面での優遇制度を整えたものだ。
対象となる財産は、非上場会社のオーナーが所有している株式。
自社株の評価が高くなりすぎ、多額の相続税が課税されるため、後継者となる相続人への株式の承継がうまく行かないことが問題となっていたので、国がその承継がスムーズに進むように税制面で手当を図ったものである。

事業承継税制は、その適用を受けるための要件がかなり厳格であったので、平成27年1月に要件緩和が行われた。以下では、この要件緩和後の適用要件を紹介する。

 

1.事業承継税制の内容

優遇税制の内容は、相続税と贈与税の両面がある。相続税については、相続によって後継者が取得した非上場株式のうち、相続前から所有していた分を含め全体の3分の2までの部分について、80%の納税猶予が認められる。
贈与税については、同じく、贈与によって後継者が取得した非上場株式のうち、贈与前から所有していた分を含めて3分の2までの部分について、全額の納税猶予が認められる。
ただし、双方ともに一定の要件を満たす場合という限定がついており、その要件がなかなか厳格なものである。

 

2.納税猶予の適用要件

以下は、納税猶予の適用を受けるための要件である。納税猶予制度は、あくまで納税猶予の特例なので、最終的には納税者である承継者が納税を免除されることになる。そのためには、3以下で述べる要件も満たさなければならないことを忘れずにいてほしい。

●相続の場合の要件

➀会社に関する要件

ア.経済産業大臣の認定を受けた中小企業者であること
イ.常時雇用している従業員が1名以上であること
ウ.非上場会社に限定され、資産保有・運用会社や風俗営業会社などは対象外であること

➁先代経営者に関する要件

ア.相続開始前に会社の代表者であったこと
イ.先代経営者と関係者で全体の50%の株式を保有していたこと、かつ、その中で後継者を除いて一番多く株式を保有していたこと

➂後継者に関する要件

ア.相続開始直前時点で役員であったこと
イ.相続開始後5か月以内に会社の代表者になること
ウ.相続後に、後継者と関係者で全体の50%の株式を保有しており、その中で一番多く株式を保有するようになること

 

●贈与の場合の要件

➀会社に関する要件

相続税の猶予の場合と同一の要件

➁先代経営者に関する要件

ア.以前、会社の代表者であったが、贈与日には代表者でないこと
イ.先代経営者と関係者で全体の50%の株式を保有していたこと、かつ、その中で後継者を除いて一番多く株式を保有していたこと

➂後継者に関する要件

ア.贈与日に20歳以上であること
イ.贈与日に会社の代表者であること
ウ.贈与日までに3年以上、会社の役員であったこと
エ.贈与後に、後継者と関係者で全体の50%の株式を保有しており、その中で一番多く株式を保有するようになること

 

3.納税猶予のための事業継続要件

この要件は、相続税、贈与税のどちらにも共通である。以下の要件を相続税の申告期限、または、贈与税の申告期限から5年間満たす必要がある。

➀5年間、後継者が事業を継続し、代表者であること
➁5年間、平均で雇用の8割以上を維持すること
➂特例の対象となる株式を継続して保有すること
➃非上場会社であること、資産保有・運用会社や風俗営業会社でないこと

これらの一つでも満たさなくなると、納税猶予されている税額の全額と利子税を合わせて納付する必要が生じてくるので要注意である。

そして、5年が経過すると条件は緩和される。すなわち、

特例の対象となる株式を継続して保有すること
非上場会社であること、資産保有・運用会社や風俗営業会社でないこと

対象となる株式を譲渡したり、贈与した場合には、納税猶予されている税額のうち、譲渡・贈与した部分に対応する相続税と利子税を合わせて納付しなければならない。

 

4.相続税・贈与税の免除要件

●相続税の免除要件

次のいずれかの要件を満たせばよい。

ア.後継者に死亡
イ.経営承継期間の経過後に会社が破産した場合
ウ.特例の対象となる株式を後継者が別の後継者に贈与し、その贈与された後継者が「贈与税の納税猶予の特例」を受ける場合
エ.特例の対象となる株式全部を関係者以外に譲渡した場合(譲渡で取得した額を上回る猶予税額を免除)

●贈与税の免除要件

こちらも、相続税の場合と同じく、次のいずれかを満たせばよい。
ア.先代経営者の死亡(相続税の課税対象となるため贈与税は免除)
イ.先代経営者より先に後継者が死亡
ウ.経営承継期間の経過後に会社が破産した場合
エ.特例の対象となる株式の全部を関係者以外に譲渡した場合(譲渡で取得した額を上回る猶予税額を免除)

 

5.手続き

最初にも述べたように事業承継税制の適用を受けるためには、その申請を行う必要がある。

➀相続税については相続開始後8か月以内に、贈与税については、贈与日の翌年1月15日までに経済産業大臣の認定を受ける必要がある。
➁経済産業大臣の認定を受けたら、認定書を添付して、相続税、贈与税の申告を行う。この際には、非上場株式の明細や納税猶予税額の計算書も添付する。
➂同じタイミングで、一緒に納税が猶予される税額と利子税を足した金額に見合う担保を提供する必要があります。

申請手続きの後5年間を経過するまでは、毎年、その年の申告期限応当日から3か月以内に、経済産業局に事業継続の報告手続きをおこなわなければならない。そして、経済産業局からの「報告に関わる確認書」を添付して、申告期限応当日から5か月以内に、税務署に「納税猶予の継続届出書」を提出する。

5年経過後は、経済産業大臣への事業継続の報告は必要がなくなり、3年に一度、税務署に「納税猶予の継続届出書」を提出するだけとなる。

 

6.事業承継税制活用のメリット

本稿を呼んで事業承継税制を使ってみようと考えられた方は、まず先代経営者から承継者への贈与を行うことをお勧めする。
贈与税の納税猶予は全額なので、現時点では、納税をする必要は全く生じない。上記に述べてきたように、手続き的には煩雑なものがあるが、それでも全額納税を当面猶予されるのでそのメリットは大きい。

そして、先代経営者が死亡したときには、贈与された株式は相続税の課税対象となるが、その時には相続税の納税猶予制度を利用できる。この場合の納税猶予額は税額の80%にとどまり、20%については納税しなければならなくなるが、それでも80%の負担軽減のメリットは大きい。
また、事前に承継者に贈与されていれば、遺産分割による株式の相続人間への散逸を心配する必要もなく、また、何年か前に贈与されているので、その時の時価で評価されるから、承継者の経営への貢献により高まった評価額分については、相続税を負担しなくてもよいことになる。

 

7.事業承継税制活用シミュレーション

具体的な例を挙げて、事業承継のメリットを確認してみよう。

中小企業X社のオーナー創業者Aの財産は、今から5年前において自社株4.5億円、事業用財産1億円、その他財産1億円を持っていたと仮定しよう。Aは当時70歳。Aには、妻B、長男C、次男Dおり、承継者はCだ。X社の株式は、Aが100%を所有していた。

Cは、当初取引先のY社に勤めていたが、35歳のとき、Y社をやめ、X社に入社し、取締役に就任した。Dは、東証一部上場企業に勤め、順調に出世街道を歩んでおり、X社に入社するつもりは全くなかった。

Aは、70歳となった5年前、45歳の長男Cを代表取締役社長とし、自らは会長に退いて、経営を引き継いだ。
Aは、知人から3年前に事業承継税制があることを聞きつけ、これを利用してBに自社株を譲り渡すことを決め、これを実行した。これによって、Aが死んだとき、少なくても自社株はすべてCに渡るので、Dが介入してくる余地はなくなった。

また、Cが社長に就任してから推し進めてきた新製品の開発が実を結びつつあるが、それによる会社業績の向上と、その結果としての自社株の評価額の向上は、Aが死亡したときの相続時の株価評価に影響を与えなくなった。

そして、BがAより先に死亡し、Aが後を追うように75歳で死亡した。
これによりCが受けていた贈与税の納税猶予は終了し、C、Dによる相続の場面に変わった。DはCが会社を引き継ぐことでCが自社株4.5億円、事業用財産1億円、Dがその他財産1億円を相続することで話がまとまった。

この場合、Cが納税猶予を選択すると、80%の納税猶予を受けることができる。しかし、その場合の計算手法は複雑であるので、そのやり方をここで紹介しておこう。

まずC、Dの納税猶予がないものとして通常の相続税額を計算する。Cは合計5.5億円、Dは1億円の財産を相続する。
この場合の基礎控除は4200万円。従って、相続財産は6億800万円となる。
法定相続分は2分の1ずつだから、C,Dそれぞれ3億400万円を相続するものとして、相続税を試算すると1億980万円。2人分で2億1960万円。
これをC、Dの相続分で案分すると、Cは1億8582万円、Dは3378万円の納税をすることになる。

次に、Cが自社株の3分の2の3億円のみを相続し、Dはその他財産1億円を相続したものとして、相続税を計算する。上記の場合と同じ計算方式で、Cの相続税を計算すると、Cの納税額は8190万円となる。

さらに、次に、Cが3億円の20%である6000万円の株式のみを相続したとして、相続税を計算する。この場合は、803万円となる。
そして、8190万円から803万円を引いた7388万円が、Cがうける納税猶予額となる。従って、Cは1億8582万円から7388万円を引いた1億1194万円を納税しなければならないというわけだ。

この納税猶予額7388万円は、相続税の約4割の金額である。これだけの納税を猶予され、かつ、最終的にCの死亡によって免除される可能性があるのだから、この効果を魅力的なものである。

さらに、1代目→2代目→3代目と連続的に納税猶予制度を利用していけば、自社株の承継にかかわる税額を大きく減らすことができるので、事業承継税制活用のメリットには大きいものがある。

©2017 青山東京法律事務所.
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