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相続人の範囲と相続分によるトラブルの事例

今回は、相続人の範囲がどこまでなのか、そして、各相続人がいくら相続できるのかについて、説明していく。

■1.相続人の範囲

まず、相続人の範囲は戸籍により確定されることを確認しておこう。

どんなに長く別居していても、戸籍上の妻は妻。相続権がある。ところが、どんなに長く同居していても、事実婚の妻は、法律上の妻ではないから、相続権はない。
そして、戸籍上の妻も離婚すれば、戸籍上の妻ではなくなるから、相続権はなくなる。

子どもについても同じ。戸籍上子として認知されていないものは、法律上の子ではない。たとえ事実上の子であったとしても。
例えば、夫が再婚した場合の妻に連れ子がいた場合。連れ子と同居し始め、夫がいくらその子を可愛がっていても、その子は夫の戸籍上の子ではない。その子はあくまでも前夫の子である。
では、その子が今の夫の子になれないかと言えば、そうではない。養子縁組をすれば、今の夫の子にもなることができる。そして、養子縁組をしてしまえば、夫の相続人になる。
この子の前夫との父子関係は、養子縁組によってなくなるわけではないので、この子は前夫からも今の夫からも相続をする権利を持つことになる。

この原則を理解した上で、誰が相続人になるかを見ていこう。

(1)妻はいつも相続人

夫の家族構成がどうなっていようと、法律上の妻は必ず相続人。ただし、後で述べる相続分は、誰と一緒に相続するかで異なる。

次に、血族と言って、血のつながった人も相続人となる。血のつながった人とは、夫の子どもであり、夫の父母、兄弟姉妹のことをいう。
血族の中での優先順位は、子→親→兄弟姉妹の順番。子がなければ、親が、親もいなければ兄弟姉妹が相続するという順番になる。

(2)相続人となる子

夫と妻が婚姻中に生まれた子は、当然相続人となる。

養子と言って、血のつながっていない子も相続人となる。
養子になった人には実の親がいるが、普通の養子縁組では実の親との縁は切れない。養子は実の親と養親の両方から相続を受けることができる。
ただし、特別養子縁組という制度があって、実の親との親子関係を切って養子に入る場合には、実の親との親子関係が切れることになる。原則6歳未満の子どもを養子にする場合にだけ認められる。

婚姻の間に生まれたのではないが、夫が認知した子も夫の子となる。
かつては、これを非嫡出子(ひちゃくしゅつし)と言って、正式に結婚した配偶者との間に生まれた子ども(嫡出子(ちゃくしゅつし))の半分しか相続権を認めていなかった。しかし、最高裁が違憲判決を出したことで、非嫡出子の相続分も嫡出子と一緒になった。

事実婚から生まれた子は、婚姻中に生まれた子ではないので、夫の子であると推定する「嫡出推定」が働かない。夫の子であると認めさせようとすると、認知という手続きを取らなければならないので、手続きが煩雑になる。
従って、事実婚の夫婦も、妻が妊娠したら婚姻届を出して法律婚としておくことが、子のためには望ましい。

(3)子がいない場合の相続人

子がいない場合、妻と一緒に相続人になるのは、以下の順番となる。
まず、夫の両親、または、祖父母。
次に、夫の兄弟姉妹。夫の兄弟姉妹が亡くなっているときは、その子が代襲相続をできる。つまり、甥や姪にも相続が認められる場合がある。
でも、その甥や姪もなくなっている時には、その代襲相続は認められない。つまり、代襲相続ができるのは一代限りということ。

■2.相続分

こうして、夫が亡くなった場合の相続人が誰になるかが分かった。次に、それぞれの相続人がいくらもらうのかを検討しておこう。

(1)妻と子どもがいる場合の相続分

妻と子がいれば、その相続分は2分の1ずつになる。妻は一人で2分の1をもらうが、子は複数いれば2分の1を分け合うことになる。
具体的には、子どもが2人いれば4分の1ずつ、3人いれば6分の1ずつというようになる。

(2)妻はいるが、子どもが亡くなっている場合

子どもが先に亡くなっている場合だが、その子どもに子がいた場合、つまり、孫がいた場合には、その孫に相続権が認められる。これを代襲相続という。親に成り代わって、子どもが相続をするということだ。

例をあげて説明すると、妻の他に、子どもがA,Bと2人いたが、そのうちAが亡くなっており、Aに子X,Yがいたという場合。XとYは、4分の1の相続分を持っていたAの権利を分け合うことになり、それぞれ8分の1をもらう。Bは、最初から変わらず、4分の1をもらうことになる。

(3) 妻が死亡し、子どもだけの場合

妻がすでに死亡しており、子どもだけがいる場合には、子どもが全部を相続する。子どもが一人だけなら、その子が100%、2人なら50%ずつ財産を相続することになる。

(4)妻はいるが、子がなく、親がいる場合の相続分

次に、子どもがいない場合には、親に相続権が認められる。親が両方とも亡くなっているが、祖父か祖母が生きていたという場合には、祖父か祖母に相続権が認められる。
妻と夫の親が相続人となったときは、妻に3分の2の相続権が認められ、残りの3分の1が父母に行くことになる。父母が双方生き残っていた場合、3分の1を分け合って、それぞれが6分の1ずつを得ることになる。
妻も子どももいない場合には、両親が生きていれば半分ずつ、片親だけが生きていればその親に全部の相続が認められる。このように、相続と言っても、財産が家系図上、上に書かれている人に行ってしまうケースもあるのである。

(5)妻はいるが、子どもも親もいない場合の相続分

最後に、子どもも親もいない場合は、兄弟姉妹に相続権が認められる。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子に代襲相続権が認められる。ただし、この場合の代襲相続は一代限りとなり、兄弟姉妹の孫は代襲相続ができない。
妻と兄弟姉妹が相続人となるときは、妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになる。兄弟姉妹が2人いれば、4分の1の半分ずつの8分の1ずつ、3人いれば、12分の1ずつとなる。
配偶者も子どもも親もいなければ、兄弟姉妹が全部相続し、複数の兄弟姉妹がいれば各々均等に相続をする。

(6)誰も相続人がいない場合は特別縁故者が登場

法律上の相続人がいない場合に初めて、事実婚の相手方に相続が認められる可能性が出てくる。家庭裁判所で特別縁故者として認められたら、相続人になれる。
でも、こういうケースは珍しいので、相続のことを考えたら、法律上の婚姻をしておいた方がずっと得だ。

ここで、これまで述べてきた法定相続分を表でわかり安く整理しておこう。

配偶者 直系尊属 兄弟姉妹
配偶者のみ 100%
配偶者と子 1/2 1/2
子のみ 100%
配偶者と直系尊属 2/3 1/3
直系尊属のみ 100%
配偶者と兄弟姉妹 3/4 1/4
兄弟姉妹のみ 100%

 

■具体的な紛争のケース

ケース:住宅ローンを背負った夫が若くして死んだあと、前妻との間の子が出てきて、相続権を主張しトラブルになった例

田中太郎さんは、1940年、福岡市の生まれ。地元の高校を出た後、東京の大学に進学。卒業後、機械専門商社に就職した。1968年に、同じ大学の同級生で税理士となっていた妻理恵さんと結婚。長男隆弘に恵まれた。

太郎さんの仕事は順調だったが、海外出張が多かった。そして、税理士の仕事を続け、帰りも遅くなることの多い理恵さんと、行き違いの生活を送ることになった。

30歳の時には、会社からドイツへの赴任を打診され、太郎さんが理恵さんに仕事をやめて一緒に来てもらうことを申し入れたが、理恵さんはこれを拒否。二人の関係は、太郎さんのドイツ赴任を機に冷え切った関係となった。そして、ドイツ赴任中に離婚。
太郎さんは、ドイツの機械メーカーCNXとの取引を開拓し、その計測器を日本の大手メーカーへ販売する商売を作りあげ、35歳の時に帰国。
帰国すると、母の知り合いの人から紹介され、実家で花嫁修業中の美紀さんと再婚。すぐに、長女早紀に恵まれた。
東京に帰ってからも、太郎さんの仕事は順調で、CNXの製品の売上をさらに伸ばした貢献が認められて、38歳にして課長に昇進。

40歳のときには、思い切って練馬区に新築の一戸建てを購入。いい住宅地に家を買うことができたので、美紀さんも喜び、5000万円の借金を背負った。
ところが、いいことは長くは続かない。1985年になるとCNXは突然日本法人を立ち上げることを宣言。太郎さんは、何とかCNXの決定を翻意させようとドイツ本社に赴いて説得をしたが、逆に「日本法人の社長として来てくれ」と説得される羽目になった。

太郎さんは会社を裏切りたくはなかったが、「CNXなしでは自分の課はやっていけない、自分の会社での居場所もなくなってしまう」と考えて、上司と相談。会社の売上への影響をなだらかなものとするために、CNXの独立を3年かけて行わせるということを条件として、CNXジャパン社長への就任を認めてもらった。
太郎さんのCNXの立ち上げは順調に進んだが、ドイツ本社から報告を求められることが多く、日独の往復が毎月1回という過酷なスケジュールとなった。日本に帰ってきても、社長イコール営業部長だから、席を温める暇もなく、取引先の開拓に飛び回った。

3年の猶予期間が終わり、CNXは完全に独立した。これによって、太郎さんの責任も一層重くなった。ドイツ本社からは、毎月の収益責任を厳しく問われ、事業の拡大のスピードが遅いと非難される日々が続いた。

ある日、太郎さんはいつものように6時半に起床した。だが、頭がボーっとしている。太郎さんは、会社に行きドイツからの指示に対する対応だけを済ませ、11時ごろ病院に行ったが、もうその時は手遅れだった。くも膜下出血で帰らぬ人となったのである。享年55歳。
美紀さんも呆然である。まさかこんなに早く夫が先立つとは思っていなかった。さあ、これからどうしよう、早紀の大学進学もこれからだというのに。

まず、家の住宅ローンはどうなるのだろう。早速、銀行に相談に行ってみると、団信という保険に入っているから、住宅ローンの残債はすべて保険でカバーされるので心配ないと言われ、ホットした。
となると、太郎さんの遺産は、自宅と2000万円の現金。これを自分と早紀の2人で分ければよい。
ところが、葬式の日にどこで聞きつけたのか、先妻の理恵さんと長男の隆弘さんが現れた。理恵さんは結婚し、今は中田と姓を改めていた。隆弘さんも養子になったようで、中田隆弘という名前になっている。

葬式のあとの精進落としの席で、理恵さんは隆弘さんが相続人であることを美紀さんに告げに来た。太郎さんの財産の4分の1の相続権があることを。
美紀さんは、そんなことを考えたこともなかったので驚いた。友達に聞いてみると、先妻には相続権がないが、その子の隆弘さんには相続権があるということが分かった。
自宅の相続税評価額が5000万円、それに預金が2000万円ほどあるから、相続財産は7000万円。隆弘は約1800万円の相続をする権利がある。

しかし、家には美紀さんと早紀さんの2人で住んでいるので、これを渡すわけにはいかない。となると、現金約1800万円を隆弘に渡すことになるが、それでは、手元に残る現金は200万円になってしまう。これから大学受験を控える早紀さんの教育費のことを考えると、とてもこれではやっていけない。
美紀さんは、今後どうやって早紀さんの教育資金を調達していくかに頭を悩ませるのだった。

 

■トラブルの解説

夫が若くして亡くなってしまうと、一つ問題になるのは住宅ローン。でも、太郎さんの場合のように、住宅ローンには団信という保険がついている。太郎さんがなくなると、住宅ローンがその保険金で完済される。残された家族にとっては、素晴らしい制度だ。美紀さんが自宅を維持できそうなのも、そのお陰だ。
ところが、このケースでは、相続人の問題が出てきた。

相続人になるのは、まず妻。そして、次に子。子がいれば、親や兄弟は相続権がない。
妻は離婚すれば、もはや妻ではないから、相続権はなくなる。子は母親が離婚しても、夫の子であることに変わりはないから、相続権を持っている。母親が結婚した相手と養子縁組をしても、元の父親の子であることに変わりはない。
だから、このケースの場合、隆弘には確かに相続権がある。
太郎さんが遺言を書いて、隆弘さんに分け与える財産を少なくしておけばよかったが、そんな準備はしていなかった。かくして、隆弘さんは法定相続分を主張してくる。養子に入り、今の父親がいるのだから、そっちからもらえばいいのに…不公平にも思えるが、これが法律。ちゃんと4分の1もらう権利がある。

でも、自宅を維持するとなると、現金2000万円のなかから1800万円を支払わなければならない。これでは、現金が200万円しか手元に残らない。
美紀さんは専業主婦だったから、自分でお金を稼いでいくこともできない。こうなると、もう自宅を売却して、隆弘さんにお金を払うしかない。

こんな時のために、遺言書を書いておく意味がある。子には遺留分があるが、遺言書に財産を美紀さんと早紀さんに譲ると書いておけばよかったのだ。確かに、隆弘さんには遺留分があるが、太郎さんの遺言書があれば、隆弘さんもその意思を尊重し、遺留分請求をしてこないかもしれない。仮に遺留分請求をしてきても、8分の1しか請求できない。
太郎さんのように離婚を経験した人は、早めに遺言書を書いておくべきだったのだ。

©2017 青山東京法律事務所.
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