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株式分散リスクへの対応と後継者への株式の集中化のポイント4点

会社の株式は、経営者によってほぼ100%所有されていることが多々ある。経営者が死亡すれば、経営者が所有していた株式は相続人へ相続されることになる。とすれば、株式は相続人の間に分散していくことになる。

しかし、後継者としては、すくなくとも50%超の株式を自分で所有しておきたいと考えるものだ。
世の中の人は、この株式50%超を死守することの重要性を理解していないので、ちょっと説明をします。
会社の取締役は、株主総会で選ばれる。その時の選任の要件は過半数だ。つまり、50%超の株式を持っていれば、自分の欲する者を取締役にすることができる。また、自分の欲しない者には、反対票を投じれば、必ず落選させることができる。
一旦、自分の味方になってくれると思って選任した取締役が、自分に牙をむいてきた場合、取締役の解任が必要になる。その時の決議要件も過半数だ。だから、過半数の株式を持っていれば、気にいらなくなった取締役は何時でも解任できる。

つまり、50%超の株式を持っていれば、経営上の重要な意思決定をする取締役会のメンバーをすべて自分の意に沿う者で固めることができるのだ。
取締役会を支配できれば、取締役の互選で選ばれる代表取締役になる者も自分で決めることができる。代表取締役は、会社を代表して契約等の行為を行う者である。同時に、日常業務については、取締役会から決定権限を与えられており、自ら決定し、実行することもでき。だから、代表取締役をコントロールすることも極めて重要なのである。
つまり、取締役会と代表取締役を支配できれば、会社を支配できることになる。

従って、50%超の株式を所有しておくことが、会社の経営をコントロールしていくためのポイントだ。
以下では、後継者への株式の集中化をどのようにして実現していくのかについて、説明いたします。

 

■1.経営者が生前に実行することができる対策

経営者が生前に実行することができる対策は、売買と贈与の二つある。
売買は、文字通り、経営者から後継者に株式を売却すること。これによって、後継者は株式を取得できるが、経営者は株式売却により譲渡所得が生じるので、20%の譲渡所得を支払わなければならない。また、株価が高いときは後継者がそれだけの現金を準備できるかという問題が生じる。

次は、贈与。経営者から後継者へ株式をタダで贈与する。この場合、贈与を受ける後継者には、贈与税が課税される。ただし、毎年110万円まで贈与は非課税なので、その範囲内で贈与をしていけば、贈与税は発生しない。
株価が高い時は、110万円の枠を超えてしまうから、贈与税が発生する。贈与税の負担者は、贈与を受けた後継者になるので、後継者が納税資金を準備しなければならない。それでも、譲渡対価全部を用意するよりは、小さな金額で済む。
従って、売買より贈与の方が、後継者の資金負担という点では有利となる。

 

■2.経営者が生前に準備しておくことができる対策

経営者が生前に実行してしまうことはできないが、準備をしておくことができるものとして、遺言と死因贈与がある。
遺言は遺言者の一方的意思表示、死因贈与は贈与者と受贈者の契約であるという違いはあるが、どちらも経済的実体としては被相続人の死亡を契機として指名された者に財産を無償で移転する行為であり、経済的実態としては同じだ。ともに相続税の対象となり、民法の遺留分の問題にもなる。

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限の被相続人の財産に対する権利である。
直系尊属のみが相続人の場合には、法定相続分の3分の1となるが、それ以外の場合は、法定相続分の2分の1が認められる。

例えば、父が死に、母と長男、次男の子ども2人で相続する場合は、母の法定相続分は2分の1、長男、次男の法定相続分は4分の1である。その場合の遺留分は、母は4分の1、長男、次男は各8分の1となるという具合だ。
長男が後継者となる場合、父としては、後継者に株式を全部相続させたいところだ。しかし、父の持つ株式の評価が高く、父の相続財産の過半を占めるような場合、遺言を残して、「会社の株式は、すべて長男に相続させる。」としても、遺留分の規定に引っかかってくる。

例を挙げれば、父の財産が全部で1億円。しかし、株式がこのうちの7000万円をしめるという場合だ。父が遺言で、長男に株式7000万円を与え、母に2000万円を、次男に1000万円を与えたとする。
母の遺留分は、4分の1の2500万円。次男の遺留分は8分の1の1250万円だから、上記の父の遺言は遺留分を侵害していることになる。
母と次男は裁判を起こして争えば、足りない分を取り戻すことができる。
このように遺留分という制度があるので、遺言を書いても、必ずしも後継者に株式を集中できるわけではない。

これをすり抜ける方法がないわけではない。
一つは遺留分の放棄だ。民法1043条で、推定相続人は、相続開始前に遺留分を放棄できるとされている。ただし、この場合の手続きは、遺留分を放棄しようとする者が、自ら「遺留分放棄の許可の申立書」を家庭裁判所に提出して行う必要がある。そして、家庭裁判所の許可を得て、初めて放棄が成立する。
この面倒くさい手続を、自らの権利を放棄するために履行する推定相続人はかなり珍しい。
もう一つは、経営承継円滑化法に基づく遺留分の特例を利用することだ。

これも手続きが面倒くさい。後継者となる者を含む推定相続人全員が合意し、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可その他一定の要件を満たす場合に、後継者が経営者から贈与を受けた株式について、①遺留分を算定する財産の価額に参入しない(除外合意)、②遺留分の算定上、算入すべき価額を合意時の価額とする(固定合意)とすることが認められる。
いずれの方法も推定相続人の権利である遺留分を被相続人の生前に放棄することになるので、非常に慎重な面倒くさい手続を要求しているのである。

 

■3.経営者の死後の対策

経営者が遺言も死因贈与契約もせずに死んでしまった場合、株式の集中化ができるかどうかは、遺産分割協議にかかってくる。被相続人の残した財産のうち、株式が占める比率が低く、その他の不動産や現預金などの財産が多ければ多いほど分割はしやすくなる。
2で上げた例のように、遺産1億円のうち株式が7000万円、相続人が母と後継者である長男、会社と関係のない次男という場合には、長男に集中化させることは難しくなる。長男の法定相続分は4分の1の2500万円だから、7000-2500=4500万円の法定相続分を超過する部分の株式をどうやって長男が相続させるのかが問題となる。
勿論、母と次男が納得して、長男にすべての株式を相続させるという遺産分割協議書に判子を押してくれれば、それで終わり。

しかし、現実にはそうもいかない。他の相続人が法定相続分の権利を主張してくるのが普通だ。
こうした場合、長男に現預金が豊富にあり、代償分割と言って、株式を全部取得する代わりにその代償金―この場合4500万円―を母や次男に支払えるなら、株式を長男に集中化を図ることは可能だ。しかし、現実には、長男がそこまで多くの現預金を有している場合は滅多にない。
だからこそ、経営者が生前に実行できる対策、生前に準備しておくことができる対策を取って置くことが必要になるのである。

 

■4.種類株式の利用

ここまでは、普通株式を後継者にいかにして集中化させるかを考えてきた。
これとはガラッと変わって、経営者の生前に種類株式を発行してしまうという方法もある。普通株式の集中化が困難だから、裏の手を使うのである。
経営者が会社の普通株式を100%所有しているのなら、そのうちの一部、例えば、50%を無議決権株式に変更する。経営者は、遺言で普通株式を後継者である長男に相続させ、無議決権株は母と次男に相続させるという方法だ。

さらに、このバリエーションとして、拒否権付株式、俗にいう黄金株を発行し、これを後継者である長男に相続させてしまえば、長男は経営の意思決定を自由に行えることになる。
尚、無議決権株式も黄金株も、相続税評価上は、普通株式と全く同じとなるので、それを後継者である長男に相続させても、経済的に母や次男が不利益を被ることはない。

以上、見てきたように、後継者への株式の集中化を図るには、様々な方法がある。経営者の現在の状況を考慮して、適切な手段を講じておくことが、スムーズな事業承継につながっていく。

©2017 青山東京法律事務所.
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