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相続税節税で賃貸経営による節税の失敗例

不動産節税が流行っていることを案内したが、そこには大きなリスクが潜んでいる。
今回は、そのリスクが顕在化した例をご紹介しよう。

賃貸経営による節税の失敗例のケース

夫が相続税節税のために賃貸経営に乗り出したところ、相続後には空室が出はじめ赤字経営に転落。アパートを相続しなかった妻にも負債がのしかかってきた例

青木恵一さんは1940年、埼玉県さいたま市の生まれの一人っ子。地元の県立高校を出て、東京の有名私立大学に進学。好景気のなか、1962年に大手電機メーカーに就職した。1966年には、同じ職場に勤めていた明子さんと結婚。一男一女に恵まれた。

恵一さんは、会社でも順調に出世し、50歳で営業部長に就任。その職を5年務めた後、子会社の取締役となった。
恵一さんが55歳の時、埼玉の父親が亡くなり、57歳の時には母親が亡くなった。恵一さんは、さいたま市の一戸建てと土地100坪を相続。

しかし、恵一さんは明子さんの両親の援助を得て、すでに東京世田谷区にマンションを購入していたため、さいたま市の家を貸そうと思った。ところが、家は駅から歩いて15分と交通の便が悪く、さらに、親が50年間住み、老朽化が進んだ木造建築だったので、誰も借り手が現れず、空き家となった。
恵一さんは、子会社の取締役となってからも仕事が忙しく、家のことは気になっていたが、なかなか手が回らず、そのままにしていた。ようやく家のことを真剣に考えるようになったのが、子会社の監査役となった2003年。

社員をやめたときと取締役をやめたときの2度退職金をもらい、それはそのまま2500万円の普通預金となっていた。それまでは銀行の話に聞く耳を持たなかったが、ようやく暇になって、銀行の提案を検討してみようと考えた。
恵一さんも奥さんの明子さんもしっかり者で無駄遣いをせず、貯蓄に努めてきたので、退職金の他に定期預金も2500万円ほど持っていた。

ある日、大手都市銀行ミドリ銀行の営業マンが、退職金の運用のことでアプローチしてきたので、恵一さんは、いい機会だと思い、自分の資産内容を開示して、最適な運用プランを提案してくれるように依頼した。
営業マンは、「それなら将来のことも考えて、相続税節税プランの提案も一緒に考えてきます」と言って、帰っていった。

2週間後、営業マンは、立派な提案書をもって、恵一さんを訪ねてきた。退職金の運用には、当時はやっていた毎月分配型の国際債券で運用する投資信託の運用を進めてきた。
さらに、この営業マンによれば、恵一さんの資産は、相続税評価額で1億3000万円にも上り(マンション3000万円、預金5000万円、さいたま市の土地5000万円)、恵一さんに何かあったときは615万円もの相続税がかかってくる(この事例は相続税法改正前だが、現在の3000万円+法定相続人数×600万円=4800万円の基礎控除、現在の相続税率を適用して計算)ので、節税対策の一つとして、さいたま市の土地にアパートを建てることを勧めてきた。

今の家を取り壊し、アパートを建てるためには、大体7000万円の資金が必要になるが、それは全部銀行で融資するので、恵一さんは心配しないでいいと言う。7000万円の借金をしてアパートを建てると、アパートの固定資産税評価額は4000万円にしかならない上、貸家だと30%減額されるから、相続税評価額は2800万円。銀行借り入れ7000万円を引くと、相続税評価額が4200万円も減る。
その上、土地の上に貸家を建てると、土地の評価も30%(1500万円)減る。

つまり、1億3000万円の相続税評価額から、5700万円も評価が減るので、7300万円となる。相続税の基礎控除が4800万円あるから、2500万円についてのみ課税され、妻と子2人の場合の相続税は125万円になるという。490万円の節税だ。
その上、アパートからは毎年700万円の賃料収入が見込まれるので、生活費に300万円使っても、残りの400万円を返済に回せば、20年で完済できるというではないか。なんと素晴らしい提案だ。相続税はなくなるし、毎年300万円の小遣いももらえる。恵一さんは有頂天になった。
家に帰って、明子さんに相談してみると、明子さんは、「その話何かウラがあるんじゃないの」と言う。恵一さんも、ちょっと心配になって、大学時代の友人で卒業後税理士をしている人に相談してみると、「相続税は重いので、お前の財産だと、たぶん1000万円近い相続税がかかってくるから、節税のためのアパート経営はいいアイデアだ」と言われたので、銀行の提案に乗ることにした。

こうして、恵一さんはミドリ銀行から7000万円を借り、ミドリ銀行紹介のミドリ林業に頼んでアパートを建設した。2005年1月には竣工し、10室はすぐにいっぱいになった。1室6万円の家賃で貸すことができたので、年間720万円の収入である。管理費を年間60万円差し引かれても、660万円の手取り。このうち400万円を返済に回せばいいのだから、手元に260万円もの金が残る。ミドリ銀行の提案より40万円すくないが、「まあ、これならいいか」と恵一さんは考えていた。
恵一さんは、この時には子会社の監査役になっており、収入も営業部長、子会社の取締役のときから500万円ほど下がっていたので、その半分の補てんになったと喜んだ。子会社の取締役は、本社時代と比べればずっと暇で、休みも自由に取れるようになったので、恵一さんは、アパートからの収入を娯楽費にあて、毎年夏休みに明子さんとヨーロッパ旅行に2週間行くことにした。

恵一さんは、子会社の監査役を2006年に退職。このときの退職金は500万円しか出なかった。そして、年金生活がやってきた。
80歳までは企業年金と合わせて毎月40万円の年金がもらえるが、80歳以降は厚生年金だけとなるので、毎月25万円となるらしい。それでも、アパート収入が260万円もあれば、持ち出しになることはないだろう、今の自分の資産は全部妻と子どもに残してやれると安心していた。

しかし、いいことは長くは続かない。恵一さんに肝臓がんが見つかり、2010年、70歳にして急逝した。
恵一さんの遺産は、明子さんが自宅と現金3500万円を、子どもたちが現金1000万円とアパートの土地と建物の持分2分の1ずつを相続した。
相続税節税プランが効いて、納税額は以前計算していた通り、合計で125万円だけで収まった。

ところが、アパートからの収入は3回の更新を経た2011年ごろから減ってきた。空室が目立ち始め、家賃も5万円代に低下。この結果、年間の家賃収入は500万円になっていた。
その上、賃借人が変わるたびに、壁紙の張替などのメンテナンス費用がかかり、年間50万円程度の出費が必要になった。管理費も年間60万円払うので、手取りは390万円。わずかだが返済に不足するようになった。

竣工から10年を経過した2015年からは、さらに空室が目立ち始めた。近くに新築のアパートが数軒できたことから、なかなか賃借人が集まらなくなったのだ。アパートが駅から15分と少し遠いことも響いていたようだ。
2016年にはついに空室が4室となり、年間の賃料収入は360万円となった。その上、築10年を経て、クーラーの故障、その他電気系統の故障が出始め、メンテナンス費用もさらに50万円を増えた。管理費、入退去に伴うメンテナンスと合わせると、合計160万円にもなる。

すでにアパート経営は大赤字である。ローンの返済のための持ち出しが200万円となった。アパートを相続した子どもたちには、とてもこれを負担するだけの資産はなく、次第にローンの返済が滞るようになった。
明子さんは、自分の相続した預金から子どもたちを援助しようと思ったが、子どもたちは「お母さんの預金は、お母さんの老後に使って。ローンは自分たちでなんとかするから」と言って、明子さんからお金を受け取ろうとしない。
こうしてローンの返済が滞って1年たった日、銀行から、明子さんの下へ、内容証明郵便が届いた。開けてみると、そこには、「あなたは恵一さんの負債を相続したので、早急に返済するように」と書いてあった。

節税失敗の解説

青木家の例は、今不動産屋、住宅メーカー、銀行が盛んに勧めている賃貸アパートの建設による相続対策だ。触れ込みは、安い金利を利用して借金をして、アパートを建てる。そうすると、建物の固定資産税評価額が建築コストより大幅に安いこと、建てたアパート、土地の値段が30%減額されること、巨額の借金をしたことから、相続税評価額が大幅に下がる。これで相続税をほとんど払わなくてよくなるというものだ。

実際、恵一さんが亡くなった時の相続税は、アパート建築をやらなかった場合に比べて、大幅に減った。でも、その減額幅は、たったの490万円。一方で、背負った負債は7000万円。
確かに、いつも満室経営で家賃収入が新築時のものを維持できれば、ローン返済後にも手元にお金が残る。しかし、アパートは古くなれば、賃借人が減っていき、賃料も下がっていく。

これが起こったのが、恵一さんが亡くなった直後。相続した子どもたち2人では、赤字を埋めることができず、返済が滞るようになった。
それでも、子どもたちも明子さんも、まさかローンの返済が明子さん自身に降りかかってくることはあるまいと高をくくっていた。ところが、そうはいかない。
相続時の負債は、法定相続分に従って相続される。つまり、明子さんは2分の1の負債を背負っていたのだ。相続人当事者間でいかに遺産分割を行って、子どもが負債をすべて相続するとしても、銀行に対する関係では負債を免れない。相続において注意したいポイントの一つである。
安易な相続対策のアパート建設は、大けがの素。大いに気を付けたいものである。

©2017 青山東京法律事務所.
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