HOME>お知らせ>相続の基本-相続開始からの3か月間、相続放棄に関して

相続の基本-相続開始からの3か月間、相続放棄に関して

事業承継は、経営者の家族にとっては相続である。今回から、しばらく相続の仕組みについて説明していこう。まず、相続開始から最初の3か月間に何をしなければならないのかについて説明していこう。
以下では、夫が亡くなり、妻と子どもが相続をすることを前提に話を進めていきます。

■1.相続の始まり

相続は、被相続人である夫の死亡の瞬間に始まる。
多額の財産を引き継ぐのだから、何か手続きが必要な気がするが、そうではない。遺産分割方法が決まる前の仮の形として、分けられない遺産は共有状態に、金銭のように分けられるものは、分割されて各相続人に帰属する状態になる。
しかし、この共有状態は仮のもの。遺産分割をすることによって、最終的にどの財産が誰に帰属するかが決まってくる。

だから、遺産分割方法が相続人間で合意されるまでは、宙ぶらりんの状態である。
土地なら、夫単独の所有から、妻と子の共有になっている。妻と子一人なら、それぞれ2分の1の持分、子2人なら、妻2分の1、それぞれの子4分の1の持分の共有状態である。共有しているものを処分するには、共有者全員の同意が必要だから、妻も子も勝手に売却することはできない。
これに対し、預金は、分けることができるものだから、分割されて相続割合に応じた各相続人の帰属になっていた。しかし、銀行は、相続人がバラバラに窓口に行って、引き出しを要求してもそれに応じない。(平成28年12月の最高裁判決までは、弁護士から銀行へ請求すれば、相続割合に応じた引き出しは可能だった。それが、平成28年12月の最高裁判決によって、変更された。今は、預金も自動的に分割されず、銀行は弁護士が請求しても引き出しには応じてくれない。)

銀行は、被相続人の死亡を知った瞬間に預金をロックしており、遺産分割協議書が提示されるまでは、預金の引き出しには一切応じてくれない。預金の名義変更をする、または、解約するには、被相続人の除籍謄本、相続人の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明、遺産分割協議書をそろえなければならない。

これだけの必要書類の準備するためには、通常数か月かかる。その間、お金が下せない。ほとんどの預金を夫名義にしている場合には、生活資金にも困るようになってしまう。その上、夫の葬儀で何かと物入りだから、手元のお金はあっという間になくなってしまう。
そのため、夫が亡くなったら、すぐに銀行に行って「キャッシュカードで当座必要な金を下ろせ」と巷で言われている。しかし、遺産は分割されていないのだから、これは、法律上はお勧めできるものではない。預金を下ろしにいく人のものではないのだから。
また、こんなことをすると、後で述べるように、単純承認をしたことになってしまう。後で、夫が債務超過だったことがわかっても、相続放棄や限定承認をすることもできなくなってしまうのだ。

■2.相続の決断は3か月

相続するかどうかの決断には、3か月間の期間が与えられる。この3か月間の起点は、「相続人が自己のために相続があったことを知った日。」「死亡した日」ではなく、それを知った日から起算する。
なお、3か月というと非常に短いが、家庭裁判所に申し立てれば、期間伸長と言って、この期間を、さらに3か月間とか、6か月間、延長してもらうことは可能である。

夫と同居中であれば、死亡した日を知らないということはないが、長らく別居中だったという場合には、夫が亡くなったことをしばらく知らないこともありうる。この場合、「知った日」という規定が効いてくる。
法律で決められた3か月以内に、単純承認といって財産全部の相続を受けるか、相続放棄といって財産の相続をやめるか、限定承認といってプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産の相続をするかを決める。

(1)単純承認

単純承認をすれば、財産全部を引き継ぐことになる。財産とはプラスのものもあれば、住宅ローンやクレジットカード会社やサラ金からのローンのようなマイナスのものもあるから、要注意だ。
単純承認をすれば、当然マイナスのものも全部相続することになるから、単純承認をする前には、夫の財産の調査が必要になる。夫の生前に財産のことをよく聞いていたから大丈夫と高をくくるのは危ない。
夫は都合の悪いことを隠していたかもしれない。預金通帳を見て、ローン会社やクレジットカード会社やサラ金への振り込みがないかどうか確認しておくこと、夫に来た郵便物を見て、カード会社やサラ金会社のものがないかどうかをチェックしておくことは、自分を守るために絶対に必要だ。

単純承認でもう一つ注意しておくべきことは、3か月の期間内であっても、相続財産の全部または一部を処分すれば、自動的に単純承認になってしまうということ。夫の預金をキャッシュカードで下して遣ってしまったというのはこれに当たる。

また、この後で解説する相続放棄や限定承認をした後で、相続財産の全部または一部を隠匿(いんとく)したときも、単純承認をしたことになってしまう。夫が自宅に持っていた現金50万円を隠しておいたら、1億円の借金を背負いこんでしまった、なんてことにならないよう注意が必要だ。

単純承認での注意点

(2)相続放棄

次に、相続放棄。これは夫の財産がプラスのものより、マイナスのものが大きいときに行うもの。悩ましいのは、夫名義の自宅があるが、その一方で銀行やクレジット会社からの借り入れが大きいとき。
夫が借りているローンが住宅ローンだけの場合には、団信の保険で返済されることが多いので大丈夫。でも、もちろん団信、すなわち、団体信用生命保険に入っているかはチェックしてほしい。

しかし、中小企業の社長さんが会社の借金を連帯保証しているケース、親や友達の借金を肩代わりしたケース、日ごろの生活資金をカバーするためにサラ金からの借入が積みあがったケースなどは、夫が死亡しても、生命保険がカバーしてくれることはない。借金はそのままだ。

自宅は、これから妻が住むので相続放棄するわけにはいかない。自宅の市場価格が5000万円、借金は3000万円というケースなら、単純承認して、借金の返済が滞った時に、自宅を売却するという決断もできる。
でも、自宅の市場価格が3000万円、借金は5000万円もあるというケースは、自宅をあきらめ、相続放棄を決断せざるをえない。

一番悩むのは、自宅の市場価格は3000万円だが、夫が経営していた会社の借金の連帯保証が5000万円もあるという場合。この場合、夫を引き継いで経営しているのが息子なら、妻、母親としては、息子の手腕を信じて、借金返済が滞りなく行われるよう願うという判断になるだろう。息子が一人っ子であるとすれば、連帯保証の2分の1は息子の相続財産にもなっているので、息子も必死で会社の借金を返すはずだ。
でも、会社を引き継いだのが赤の他人ということになると、事情が違ってくる。赤の他人は、新たに連帯保証契約を取り交わさない限り、自分で会社の債務に責任を負わない。赤の他人は会社の社長になっても、自分でリスクは抱えたくないので、まず連帯保証契約に押印はしない。

会社がうまくいかず借金返済が滞っても、赤の他人には関係ないのだから、経営への必死さが違う。サラリーマン根性のままで変わらないのだ。
だから、こういう場合には、よほど気を付けておかないと、将来、会社の借金返済が滞り、連帯保証が実行され、妻が借金返済を要求される可能性が高い。

(3) 限定承認

最後に、限定承認。相続人が複数いる場合には、全員で共同して申し立てなければならない点が要注意。
ある人は単純承認して債務を全部引き受けた、別の人は限定承認して債務を資産の限度で引き受けた、また、もう一人は相続放棄して、一切債務を引き受けなかったということになると、債権者としては誰にいくら請求していいかわからず、権利関係が複雑になってしまう。
だから、限定承認は、全員でしなければいけないことになっている。全員の同意が得られないが、夫の財産、特にマイナスの財産がいくらあるかわからず不安だという場合には、相続放棄を選択せざるを得ない。

©2017 青山東京法律事務所.
ページトップへ