HOME>お知らせ>事業承継にまつわる会社支配権争い

事業承継にまつわる会社支配権争い

最近増えてきているのが、事業承継にまつわる会社支配権争いである。親子間、兄弟間で会社をわがものにしようと様々な戦いが繰り広げられる。
そこでは、会社法をうまく使うことが大事になる。会社法をうまく使えないと不本意な敗戦が待っている。
今週は、まず50%ずつの株式を持ち合い、会社経営がデッドロックに陥った(会社経営がにっちもさっちもいかなくなること)ケースを紹介していこう。

会社支配権をめぐる争い

父親がX社を創業、子どもが2人いて、長男Aも次男BもX社に入って仕事をしているという場合を想定しよう。
父親が生きている間は、株式を100%所有し続けた。亡くなった時に、ABで父親の財産をどう分割するかが話合われたが、父親には会社の株式以外には見るべき資産もなかったことから、A、B各50%ずつ株式を相続するという遺産分割で決着した。株式の支配権は同じと言っても、長幼の序に従い、Aが代表取締役社長、Bは取締役副社長となった。給料は、AがBより10万円だけ多いということで落ち着いた。会社の業績が上がるにしたがって、役員給与は増額されたが、10万円の差を維持し続けたので、特に問題は起こらなかった。

それから、15年経ち、Aにがんが発見され、1年あまりの入院治療が必要になった。そこで、Aは会長職に退いて、Bに代表取締役社長の地位を譲った。1年度、Aも手術のお陰ですっかり元気になり職場に復帰したが、Aは代表権のない取締役会長の座にとどまった。
ところが、それから5年たち、AとBの間に隙間風が吹き始める。

Aの子C、Bの子Dの処遇を巡っての争いだ。DがCよりも3歳年長であったことが事の発端だった。その上、Dは大学卒業後X社の重要取引先で修行を積み、30歳でX社に入社し、業務に通暁していたのに対し、Cは大学を中退後外国で放浪生活を歩み、何の職業経験もないまま、32歳でようやくX社に入社した。つまり、CがX社に入社したのは、Dの5年後であり、Cが年齢においても力量においてもDを大きく上回っていたのである。

代表取締役社長のBは、Dが40歳になると取締役に昇進させることを会長のAに相談した。すると、AはそれならDも同時に取締役にしたいと言う。Bは、Dの方が年長であること、Dはキャリアを積んで入社しているのに、Cはまだ仕事の基礎を学んでいる段階だから、後3年待ち、Cが40歳になった時に、取締役の昇進させるかどうか見定めるべきだとAを説き伏せた。Aは見るからに不満そうにしていたが、Bの言うことには一理あるので、この時は矛を収め、3年待つことで合意した。

そして3年が経過。AがCの取締役への昇進を申し出た。代表取締役社長のBは、Cが仕事らしい仕事もできず、会社に来てもインターネットを見たり、友達とのメールのやり取りに明け暮れているのを見ていたので、会長のAにCの態度が改善しない限り取締役への昇進は認められない旨を伝えた。
Aは当然面白くない。だが、AもCの無能さには気がついていたので、「Dを常務取締役に昇進させる代わりに、Cの取締役昇進を認めてくれないか」とBに頼みこんだ。

そこまで言われては、BもAの話を断るわけにいかない。結局、株主総会でCを取締役に昇進させ、取締役会のメンバーはA、B、C、Dの4名となった。
晴れて取締役になったCは、AからBとDが自分の無能さを非難していることを聞いていたので、何とか仕返しをしてやろうと得意のインターネットで法律を勉強し始めた。Cは、代表取締役を取締役会で解任できること、取締役会の決議をするためには過半数の賛成が必要なことを知った。

しかし、どうやってBを解任できるのか。取締役は2対2だから、動議を出しても可決できないのではないか、何とかする方法はないのかと考え始めた。
いくら仕事ができないCでも自分のプライドがかかっているとなると必死になる。そして、Aの知り合いの弁護士の下に相談に行った。すると、その弁護士から、Cがインターネットで見つけたことは正しく、X社の場合、取締役は2対2だが、解任動議を出せば、Bは退席することになるので、2対1で動議を可決できるとアドバイスを受けた。

このアドバイスに従い、Cは次回の取締役会で突然解任動議を提出し、AとCの賛成で、Dの反対を上回り、Bを代表取締役から解任することに成功した。Cは、みずから代表取締役に選任されたいと思っていたから、すぐさま自分を代表取締役に選任する動議を出し決議を行った。もちろんAとCの賛成で、2対1で可決された。

ところが、翌日、X社の顧問弁護士から、Cを代表取締役に選任した決議は、Bを排除したまま行われたので無効だ(つまり、Cも代表取締役選任の決議に参加できるということ)と通知された。Cの中途半端な法律知識が招いた間違いだった。
Cは、もう一度決議すればよいとも思ったが、よく考えてみると、Bが戻った後では、2対2に票が割れて、決議ができるはずもない。AとCは弁護士を再度訪問し、どうしたらよいのか再び相談した。

弁護士によると、一時代表取締役選任の訴えを起こすことができるという。そこで、Cが適任であると認められれば、Cが一時代表取締役になれるという。AとCは、それなら問題ないと思い、弁護士に手続きを依頼した。

ところが、弁護士に依頼してから、裁判所で期日が開かれるまで、軽く3か月がかかってしまう。その間にBに代表取締役として仕事を進められては困ると思ったAとCは、Bが代表取締役を解任されたことを通知するハガキを作り、取引銀行、取引先へ配送した。

これを見た取引銀行、取引先は真っ青である。代表取締役社長が解任されるような内紛のある会社とは誰も取引をやりたくない。銀行の融資はストップされ、仕入れ先からの原料資材の買い入れはすべて現金取引となった。
困ったのはBである。いまだに実質上社長として業務を取り仕切っていたが、現金がどんどん出ていく。それなのに銀行からお金を借りることができない。X社には、これまで蓄積してきた現金が大量にあるので、当面1年間は借入をしなくても大丈夫である。
5か月後、裁判所は、社員のほぼ全員がBこそ代表取締役にふさわしいという血判状に署名している事実を重く見て、Bを一時代表取締役に選任した。

しかし、この頃にはX社の現金は底をつきそうな状況になっている。BはAと話して、Aからの株式の買取を申し出るが、AはCから「Bには一切譲歩をするな」と脅された。AとCの親子関係はゆがんだもので、Aはすぐに暴力をふるうCの言うことに反対できないという関係だった。
だから、AはBの言うことを聞こうともしない。Bは、このままではX社の資金が枯渇してしまうので、何としてもAの株式を買い取ろうと思い、評価額の2倍をオファーするが、それでもAは聞き入れない。

Bは、Aと話し合いをすることをあきらめて、顧問弁護士の知恵を借りて、Bは株主としてX社に対して、会社解散請求訴訟を提起することにした。
裁判所では、AとCは補助参加(原告、被告の当事者以外の利害関係者が訴訟に参加する手続き)をしてきて、会社解散請求に反対の意思を示してきた。しかし、裁判所は、X社の会社経営が50対50では何も決議できないから経営が立ち行かないこと、現金が枯渇してきていることを重視して、X社の解散の訴えを認めた。

こうしてX社は清算人を選び、粛々と持っている資産を清算していくことになった。X社の資産を換金し、そこから負債をすべて支払い、残った財産を株主に分けていくことになる。会社の解散に伴い、急いで資産を売るのだから、足元を見られ、いい値段で売ることはできない。

会社が継続していくのなら、営業権というソフトが評価されて、その分価格に上乗せされるものを、こうした場合には、そのものを物として売ったときの価
格でしか売ることができない。

その上、X社の持つ資産を売却し、売却益が出れば税金を払う。その残りを株主に配当するのだが、そこでも再び税金が取られる。資本金の部分を超える額は、みなし配当課税が適用されるので、株主であるAとBは総合課税で課税されることになる。つまり、その年の通常の所得に配当額が上乗せされ、それに所得税が課税されるので、所得税の負担が非常に重くなるのである。

かくして、X社の生きている会社としての価値は大きく毀損され、ただ単に物を売ったとして得られた価格だけが、株主への配当の価格になっていく。それに所得税が課税され、手取りは微々たるものになる。

AとBで話がつき、どちらかが他方へ株式を売っていれば、株式を売った方は20%の分離課税、買った方はX社を手に入れ、経営を継続していくことになっていたはずだ。つまり、どちらにとってもX社を活かして置くことが利益になったのだが、Cの怨念から、AもBの提案に聞く耳を持たなくなってしまったので、大きな不利益を被ったわけである。

これをみてわかるように、株主が協調すれば、株主にメリットのある解決策が実行できたはずだが、株主間がいがみ合い、対決姿勢が鮮明になると、それどころではなくなる。会社の価値を破壊し、株主の利益を大いに毀損することになるのである。株主間の争いはなんの利益も生まないものであることを肝に銘じてほしい。

また、この例を見て、最も反省すべき点は、相続で株式を50:50としたことである。Bが51%持っていれば、臨時株主総会を開いてCを解任することもできた。そうすれば、おそらくAも時価で株式を手放したことだろう。
事業承継時には、兄弟といえども、誰が会社を経営していくのかを明確にしておく。これが、この例から学ぶ最も重要な教訓だと思う。

©2017 青山東京法律事務所.
ページトップへ