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事業承継と相続

事業承継は、経営者の家族から見れば相続である。引き継ぐ家族は、妻であることもあれば、長男であることも、次男であることも、長女の夫であることもあるが、ここでは話を簡単にするために長男が父親から引き継ぐものとして話を進めていこう。

長男にとってなによりも心配なのは、父親から株式を引き継ぐ時に、全部を自分で引き継げるか、次にその場合の相続税がいくらになるかである。会社の経営状態がいいと、当然株式の評価は高くなっているから、相続税も多額に上ることになり、支払い能力の問題がのしかかってくる。
一人っ子あればよいが、長男以外に長女がいるという場合には、遺言書で長男に法定相続分以上の資産を譲ると明確に書いていない限り、法定相続分に従った分割をすることになる。
母親が生きていれば、長男の相続分は4分の1しかないのだから、株式の評価が高ければそれを全部長男が相続することなどありえない。仮に母親が亡くなっていても、2分の1しか相続分がないので、この場合でも、長男が評価の高い株式すべてを引き継ぐことになれば、現金はほとんど引き継げず、相続税の納税に窮することになる。

 

田中家の事業承継

こうして抽象的に話をしていてもわかりにくいから、田中家のケースを、数字を示しながら議論していこう。
父親の全部の相続財産が1億6000万円。そのうち8000万円が自宅の不動産、6000万円が会社の株式、2000万円が現金であったというケースを考えてみよう。

母親は存命。長男のほかに、長女がいる。長女は結婚して、大手企業のサラリーマンの専業主婦になっているとしよう。
この場合に法定相続分は、妻が2分の1、長男、長女はそれぞれ4分の1だから、妻は8000万円、長男、長女は4000万円の相続分を有することになる。
まず、自宅には妻が住んでいるので、妻は自宅を取るとしよう。長男は株式4000万円。長女と次男は、それぞれ株式2000万円と現金2000万円を取るとする。

これでは、長男は株式を全部引き継げず、長女の顔色を伺って経営していかなければならなくなる。長女から配当を出せと言われたり、社長である長男の給与を下げろと言われたりする可能性がある。
長男ばかりでなく、妻も困ってしまう。なぜなら、妻が引き継ぐものは自宅だけで現金がないからだ。妻が自分の現金をたくさん持っているのならいざ知らず、そうでない限りは、遺族年金だけの生活となってしまい、明日からの生活資金に窮することになってしまう。

本来あるべき事業承継、相続の姿は、長男が株式を全株引き継ぐ、妻が死ぬまで生活に困らないように、自宅と生活資金となる現金を持つという形だ。上記のケースの場合なら、妻が8000万円の自宅と現金2000万円、長男が6000万円の株式を相続するようになれば、この形を実現できる。

でも、そうなると、長女の取り分は0。長女がそれで満足するわけはない。
まず、長男の株式の取り分を4000万円にしろと言ってくるであろう。
自宅を全部妻の名義とはせずに、長女に2分の1の共有持分を持たせるのが解決策となる。その代わり、妻が死ぬまでは売らないと約束させる。
こうなると、長女は登記上妻と2分の1ずつの共有者となっても、現金は一銭を入らず、そこに住んでいるわけでもないので、メリットは何も受けない。逆に固定資産税の納税義務が生じるから、妻が亡くなるまではただの持ち出しとなってしまう。

当然、父親からの相続時に、長男と長女には相続税が発生する。その金額は、それぞれ370万円だ。受け継ぐ4000万円の財産に比べれば大した金額ではないが、長男は株だけ、長女は共有持分だけを相続し、現金は一銭も入っていないことを考えると、軽い負担ではない。因みに、妻=母親は、1億6000万円までの非課税枠が使えるので、税金は0である。

さらに、妻=母親が亡くなったときには、長男、長女の相続問題が発生する。この時も遺言が無ければ、長男と長女の相続分は2分の1ずつ。妻=母親が父親からもらった現金2000万円を使い果たしてしまっていた場合には、自宅の共有持ち分4000万円のみが相続財産となる。

長女にしてみれば、父親からの相続のとき、長男が2000万円分多くもらっているのだから、母親の相続の時には多めにもらいたいところであろう。父親が亡くなってから何年も何のメリットもない共有者の地位に甘んじてきたのだから、母親の持つ共有持ち分は、全部自分が取って当然だと考えるのが人の常ではないか。
しかし、法律に従えば、この時の法定相続分は、あくまで2分の1ずつ。長男が2000万円分の共有者となる。尚、妻=母親の財産は4000万円だけだから、今回の相続の際、長男も長女も税金はかからない。

もし、長男が母親と同居していたなどという場合には、長男は家に住むことにこだわり続け、長女が自宅を売って現金化することに強く反対するであろう。長女は嫁に出て、別の場所で暮らしているので、長男が買い取ってくれれば文句なく手放すのだが、長女の持分相当の6000万円(父親から4000万円、母親から2000万円)を現金で支払う資力などあるはずもない。

かくして、長男と長女の相続戦争が勃発することになる。幸いなことに、会社の株式は長男がすべて持っているので、会社の経営の紛争となることはない。ただ、もし会社が自宅と併用型の場合には、自宅の所有権をめぐる争いは会社の経営にも暗い影を落とすことになる。
こうした事態を避けるために、父親が遺言書を書き、長男、長女の相続分を指定して置くことが必要だと唱えられる。しかし、現実には、父親としても、法定相続分から大きくかい離した相続分を遺言書で指定することにはためらいを覚える。

仮に大きく法定相続分とかい離した相続分を指定すれば(上記の例だと、長女の相続分を遺留分である8分の1未満とした場合)、今度は長女が遺留分減殺請求を起こし、8分の1まで相続分を回復させようとしてくる可能性が高くなる。
従って、父親としては、長女にも満足できるように、生前から手を売って置く必要がある。様々な方法が考えられるが、以下にその大枠だけを紹介しておこう。

 

1.遺言による長男への財産の集中化

父親が遺言書を書いて、長男に株式を全部相続させる旨を指定する方法である。
上記の例で言うと、6000万円の株式すべてを長男に相続させるとし、妻=母親には、自宅の共有持分4000万円と現金2000万円、長女には自宅の共有持分4000万円としておけば、妻=母親が16分の6、長男も16分の6、長女が16分の4を相続することになり、遺留分を侵害することもない。

 

2.生前贈与による長男への株式の譲渡

次に、父親が存命中に長男に株式を贈与していく方法だ。贈与税は、110万円までは非課税だから、310万円の贈与を行っても税金は20万円だから、父親が亡くなる10年、15年前から贈与をしていけば、3100~4650万円という金額が贈与できることになる。地道にこうした贈与を行っていくことで、かなり相続財産を減らすことが可能なのである。

 

3.生命保険による長女の不満解消

どうしても長男に集中し過ぎで、長女にも財産をできるだけ均等に残したいと思うときには、父親が入っている生命保険の受取人を長女に変更する方法がある。通常、父親が入っている生命保険の受取人は妻=母親になっているものと思うが、それを長女に変更すれば、父親が亡くなったとき、生命保険金は長女に入ることになる。ただし、生命保険金は民法上の相続財産に入らないので、長女に分け与える財産が遺留分を下回る場合には、長女が遺留分を主張して争ってくる余地が残ってしまう。それを考えるなら、むしろ生命保険金の受取人は妻=母親にしたままで、その金額の分の現金を長女に与えることにした方が争われる余地のない無難な解決策となる。

 

4.生命保険利用による株価引き下げ

会社で現金を支払って生命保険に入ると、その評価が支払った現金の価値よりも低くなるため、会社の純資産を減少させることが可能となる。生命保険は、解約返戻金という解約した時に戻ってくるお金の価値で評価されるので、加入してからしばらくの期間は、解約返戻金の額が大幅に支払った現金の価格を下回ることが多く、こうしたことが可能になるのである。これについては、後日、「生命保険と事業承継」というタイトルで詳しく解説したい。

 

5.退職金の支払いによる株価引き下げ

さらに、もう一つ会社の株価を引き下げ、なおかつ、相続財産の現金を増やす方法が父親への退職金の支払いである。父親が死亡時まで会社の取締役を務めている場合には、死亡退職金が相続人に支払われることになるので、株価が下がっても、その分、父親個人の現金資産が増えたことになるから、行ってこいで効果が亡くなってしまうが、存命中に会社を退職し、退職金を受け取れば、その分だけ会社の純資産が減少し、株価が下がることになる。
この結果、長男が相続する株式の評価が減り、長女との不公平感が和らげられることになる。父親はこれによって得た現金を生活費に使うこともできるし、死亡時には妻へ残す現金とすることもできる。

以上の通り、事業承継は経営者の家族にとっては相続そのものである。従って、事業の承継をスムーズに進めていくためには、家族からの反対と受けないように、相続面において周到な準備を進めていくことが必要なのである。

©2017 青山東京法律事務所.
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