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遺留分の制度が変更?事業承継対策への影響とは?

現行民法では、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じるとされており、原則現物返還の効力が生じる。

このため、事業承継で先代の経営者が所有していた株式や不動産を遺言により経営を承継する長男に相続させたとしても、それが遺留分を侵害し、侵害された者から遺留分減殺請求権を行使されると、長男に相続させた株式のうち遺留分を侵害している部分は遺留分減殺請求者のものとなる。会社の本社の土地建物のような不動産であれば、長男と遺留分減殺請求者の共有となってしまう。この結果、先代の経営者が長男に会社の株式と本社の土地建物を相続させ、経営をスムーズに継続させようとした意思が実現されないという事態が生じてしまう。

こうした事業承継の実現を妨げる遺留分減殺請求制度の問題点を解決するため、改正法においては、遺留分減殺請求権の行使により生じる権利は金銭債権とされることになった。つまり、改正法では、遺留分権の行使は「遺留分侵害額請求権」となり(改正法1046条、1048条等)、金銭で補てんしたもらう権利となったのである。現物の返還は認められなくなった。
さらに、この遺留分侵害請求権の支払いについて、裁判所が一定期間の猶予を与えることも可能となった。

この結果、長男は、先代から相続した株式と本社の土地建物を所有しながら、時間をかけて遺留分侵害額を支払っていくことが可能となったのである。
以上が、遺留分侵害請求権の新設が事業承継に与える影響だが、以下では遺留分制度の変更点をもっと詳しく見ていこう。

1 遺留分を算定するための財産の価額の算定

この点については、現行法と改正法に違いはない。改正法では、その算定の仕方を明確に規定した。

つまり、「遺留分を算定するための財産の価額」を、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額と定義した(改正法1043条1項)。そして、これに遺留分割合を乗じた額が遺留分となると定めた(改正法1042条1項)。

2 遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の範囲

現行法上、「贈与は、相続開始前の1年間にしたもの」が遺留分の算定の基礎となるとされている(民法1030条)。判例(最高裁平成10年3月24日判決)及び実務では、この条文は相続人以外の第三者に対して適用されるものと解されている。そして、相続人に対する贈与は贈与の時期を問わず、1年以上前のものであっても、すべて遺留分算定の基礎とされている。

しかし、全ての贈与が遺留分算定の基礎とされると、子どもの時の学費負担や結婚資金の贈与等、遺留分権利者に害を与えることを知らなかったであろう何十年も前の贈与も遺留分算定の基礎となってしまい、却って被相続人の意志に反する事態が起こってしまう。

そこで、改正法では、相続人に対する贈与は相続開始前10年間になされ、かつ、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限って、遺留分を算定するための財産の価額に算入されることとなった(改正法1044条3項)。

3 負担付贈与がされた場合における遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の価額等

現行法上、負担付贈与があった場合、目的の価額から負担の価額を控除したものについて減殺を請求できるとされていた(民法1038条)。しかし、この規定だけでは、贈与額全部を遺留分算定のための財産の価額に加えて遺留分を算定し、減殺の対象を負担額控除後の額とすると解釈する余地が残されていた。

改正法では、負担付贈与があった場合、1043条1項に規定する贈与した財産の価額は、目的の価額から負担の価額を控除した額とするとされ(改正法1045条1項)、こうした解釈が認められる余地を完全に断った。

例えば、夫が亡くなり、後妻と先妻の子が残された場合、夫の財産が1億円の自宅と住宅ローンの残高5000万円だったが、これを生前に後妻に全部贈与していたケースを想定する。

つまり、後妻が自宅の住宅ローンを引き受けることを条件に贈与していた場合、先妻の子の遺留分がいくらになるかを考えてみよう。
贈与額全額を遺留分算定の基礎とする場合、先妻の子の遺留分は1億円の4分の1の2500万円となる。そして、減殺の対象を負担額控除後の額、つまり、5000万円とすると、後妻は2500万円しか相続することができなかった。

これに対し、目的の価額から負担の価額を控除した額を遺留分算定の基礎とする場合には、先妻の子の遺留分は5000万円の4分の1の1250万円となる。つまり、後妻は3750万円を受け取ることになるのである。

また、改正法1045条2項では、不相当な対価をもってした有償行為は、対価を負担の価額とする負担付贈与とみなし、1項に従って処理されることとしている。上記の例で、5000万円の住宅ローンが完済された1億円の自宅を後妻に7500万円で売却していた場合には、2500万円の負担付贈与があったとみなすことになったのである。

現行法では、不相当な対価をもってした有償行為(廉価での売買等)については、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合には、これを贈与とみなし、遺留分権利者が遺留分減殺を請求した場合には、対象財産全部の減殺が認められ、(不相当な)対価を侵害者に償還することとされている(民法1039条)。

この不相当な対価で売却された財産が株式であれば、その株式の遺留分侵害部分は返還され、不動産は共有となっていたところである。
不相当対価での有償行為が負担付贈与とみなされることとなり、遺留分権者の請求権が金銭債権化されたため、仮に不相当な対価での株式や不動産の売買があったとしても、それを現物返還する必要はなくなり、事業承継を妨げる要素が排除されたのである。

4 遺留分侵害額の請求

遺留分侵害額の具体的計算方法が、改正法1046条2項で規定された。現行実務と同様だが、以下のようになる。

遺留分侵害額 = 遺留分額 - 遺留分権利者が受けた特別受益 - 法定相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額 + 被相続人に債務がある場合には、その債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額

例えば、夫の財産が1億円の住宅とその住宅ローン5000万円、相続人が後妻と先妻の子の2名だけであり、後妻が1億円の自宅を取ったが、住宅ローンは後妻の子に押し付けてきた場合で考える。後妻の子の遺留分額は1250万円、遺留分権利者が受けた特別受益は0、法定相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額は0、遺留分権利者が負担する債務の額は5000万円となるので、1250万円-0-0+5000万円となるから、遺留分侵害額は6250万円となる。

5 受遺者又は受贈者の負担額

受遺者・受贈者の遺留分侵害額の負担の順序(改正法1047条1項)については以下の通り規定された。この点、現行法(民法1033条ないし1035条)と特に変わるところはない。

① 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
② 受遺者・受贈者(同時の贈与)が複数ある場合、遺贈・贈与の目的の価額に応じて負担する。

③ 受贈者が複数ある場合、後の贈与を受けた者から順に負担する。
また、受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担する点(改正法1047条4項)も、現行法(民法1037条)と同様である。
さらに、遺留分権の行使により金銭請求権が発生することとなったことに伴い、以下のような変更が行われた。

① 受贈者の果実返還義務(民法1036条)が削除され、受遺者・受贈者は、一般的な遅延損害金による負担をすることとなりました。遺留分権利者から請求を受けたときから遅滞の責任を負うことになる。
② 受遺者・受贈者は、裁判所に対し、遺留分権利者に対する債務の全部又は一部の支払について、相当の期限の許与を請求することができる(改正法1047条5項)。
③ 受遺者・受贈者は、遺留分権利者が承継した債務について、弁済その他債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務額を限度として遺留分権利者に対する意思表示によって、遺留分権利者から受けた請求額を消滅させることができる(改正法1047条3項)。
6 遺留分侵害額請求権の期間の制限

担する。
また、受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担する点(改正法1047条4項)も、現行法(民法1037条)と同様である。
さらに、遺留分権の行使により金銭請求権が発生することとなったことに伴い、以下のような変更が行われた。
① 受贈者の果実返還義務(民法1036条)が削除され、受遺者・受贈者は、一般的な遅延損害金による負担をすることとなりました。遺留分権利者から請求を受けたときから遅滞の責任を負うことになる。
② 受遺者・受贈者は、裁判所に対し、遺留分権利者に対する債務の全部又は一部の支払について、相当の期限の許与を請求することができる(改正法1047条5項)。
③ 受遺者・受贈者は、遺留分権利者が承継した債務について、弁済その他債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務額を限度として遺留分権利者に対する意思表示によって、遺留分権利者から受けた請求額を消滅させることができる(改正法1047条3項)。

6 遺留分侵害額請求権の期間の制限

現行法(民法1042条)と同様だが、遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分侵害の事実があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で、消滅時効により消滅することになる。
以上の通り、遺留分制度の改正は、いくつかの点でスムーズな事業承継を容易にするものなので、改正法の施行(公布の日である平成30年7月13日から1年を超えない範囲内において政令で定める日)後は、その利用を進めていきたい。

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