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事業承継と中小企業投資育成

中小企業投資育成と聞いても、ピンとくる人は珍しい。中小企業投資育成とは、中小企業投資育成株式会社法に基づいて設立された政策実施機関で、中立的・長期的な観点から中小企業を支援するものである。東京、名古屋、大阪に3社が設置されている。
このように知名度の低い中小企業投資育成ではあるが、それは安定株主になってくれたり、株価対策に貢献したりしてくれるので、事業承継において大いに活用できる機関である。
以下では、その活用状況から始め、活用のメリットを紹介し、さらに具体的な活用事例を紹介していこう。

■1.中小企業投資育成の活用状況

ちょっと古いデータになるが、2013年3月末現在で、投資育成3社の投資残高は2269社で744億円となっている。全国で結構多くの中小企業が事業承継等の分野において投資育成の助けを得ていることがわかる。

■2.中小企業投資育成活用のメリット

中小企業投資育成は、中小企業の株式を引き受け、長期的に安定株主として経営陣を支えてくれるところが最大のメリットである。
投資育成は、議決権行使に当たって、経営陣の判断を尊重してくれるので、経営権が安定する。そして、10年以上の長期安定株主となってくれる。ただし、安定株主でいてくれる期間には、47年という限界がある。

投資対象企業は、増資前の資本金が3億円以下の中小企業。公序良俗に反する事業、投機的な事業は対象とならない。従業員数に制限はなく、株式上場をしなくてもよい。
投資の上限は、増資後の議決権個数が50%以内と決まっているが、現実には30~40%に出資比率をとどめている例が多い。

あくまで経営は現経営陣に任せるというスタンスである。
投資育成は、こうした投資をする代わりに、投資額の6%以上の安定的な配当の実施を求め、また、定時株主総会の開催、決算内容、総会付議事項の事前説明を求める。
この他に、税務・会計・法律・人事・株式公開・M&A・国際化等の経営相談や、情報提供のためのセミナー、研修会を開催しているが、これらは事業承継を円滑に進めるための付随的なサービスと心得ておけばよい。

■3.中小企業投資育成活用の具体例

では、中小企業投資育成をどのように使ったら、事業承継に役立てることができるのか。

(1)元役職員、従業員持ち株会の株式の買取

かつて、役職員へのインセンティブ向上のために、上場を目指していた会社のケースを見てみよう。上場時に役職員にも公開益が得られるように株式が役職員に下記のように分散化しているケースである。
この会社の発行済み株式数は300万株。社長一族は、40%の120万株を有しているが、その他役員が50万株、従業員持ち株会が50万株、しばらく前まで会社の金庫番として活躍していた元副社長が50万株、重要取引先3社が30万株を有している。

同じ業界でM&Aが起こり、上場により買収対象をなることを恐れた社長は、会社が上場を目指すのを取りやめた。これに伴い、役職員が株式を所有している意味がなくなった。
この結果、従業員持株会からは50万株の買取要求が来ている。元副社長も、既に引退していることから、株式を所有している意味がなく、やはり会社に50万株の買取を頼んできている。つまり、全部で100万株の買取請求が来ている状態である。

全100万株を買い取るには、株価は250円と高いので、2億5000万円の資金が必要となるが、社長一族も現役の役員もそんな大金は持ち合わせていない。
そこで、白羽の矢が立ったのが、中小企業投資育成である。中小企業投資育成が6%の配当を継続してくれることを条件に2億5000万円で、元副社長、従業員持ち株会から株式を買い取り、33%の安定株主となった。
中小企業投資育成は、議決権行使において経営陣を支援してくれるから、社長一族、その他役員、中小企業投資育成を合わせれば、85%の議決権を確保できることになったので、会社の安定的経営が可能となった。
ただ一点気がかりは、配当負担である。6%の配当は全300万株に対して行わなければならないので、4500万円の配当を毎年行っていく必要がある。
社長は緊張感をもって経営のかじ取りをしていかないと配当が行えなくなると気を引き締めている。

(2)安定株主対策

長い歴史の中で、創業家の相続、取引先との持ち合い、役職員への株式譲渡等の理由で株式が多数の株主にばらけてしまい、社長一族の持株数が25%となってしまった会社の例を見ていこう。
株主数は300名近くとなり、社長一族が20%、役職員が20%、取引先が20%、創業家の親族や元役職員及びその親族等の株主が40%の株式を握るという構成である。なおかつ、この40%が200名の株主により分散して所有されているという例である。

つまり、経営陣がコントロールしている株式が全体の40%しかなく、経営権の安定を図ることが喫緊の課題となっている状態である。
そこで、この会社が考えたのが、中小企業投資育成に第三者割当増資を実施し、安定株主となってもらうことであった。
中小企業投資育成は、投資額の6%以上の配当を求めてくるために、第三者割当増資をするときに、時価よりも低い株価で株式を引き受けることになるため、既存株主から見ると、株式の希薄化が起こり、議決権においても、配当においても、割を食うことになる。

しかし、経営陣から見ると、中小企業投資育成が安定株主となってくれるので、経営が安定し、機動的な意思決定が可能になるというメリットを持つ。
会社は、こうしたメリット、デメリットを十分に考えた上で、中小企業投資育成への第三者割当増資を実施した。
この結果、中小企業投資育成が40%の株を持つことになり、社長と役職員を合わせた株式数は20%に希薄化したものの、中小企業投資育成と合わせれば60%の安定株主を有することになったので経営が安定化した。株式の希薄化というデメリットがあるにもかかわらず、あえて中小企業投資育成への第三者割当増資を実施し、経営の安定化を図ったのである。

(3)MBO

次は、大手メーカーが事業の選択と集中により、非中核事業とされたシステム部門を切り離すことになったケースを見ていこう。システム部門の部長以下の役職員は、自ら開発した新しいシステムの将来性に対して自信を持っており、MBOにより同事業を取得したいと考えている。
しかし、大手メーカーの希望の売値は1億円と高く、とても部長以下の役職員の貯蓄からの投資だけでは、必要な資金を用意することができない。

そこで、部長が考えたのが、中小企業投資育成からの資金調達である。何とか、部長以下の役職員で5000万円を用意し、残りの5000万円を中小企業投資育成から調達することに決めた。しかし、これをすべて普通株式で行ったのでは、部長以下の新経営陣と中小企業投資育成で50%ずつの株式を持ち合う形となり、経営権の所在が明確にならない。
そこで、新経営陣は、中小企業投資育成へ割り当てる株式の一部分を無議決権株とすることを考え、これを提案した。中小企業投資育成がこれを受け入れたことで、中小企業投資育成の議決権比率は40%に収まった。
こうして無事1億円の資金調達に成功し、大手メーカーからのMBOが成功した。その後の事業運営においても、中小企業投資育成が筆頭株主となったことで信用度が高まり、金融機関からの運転資金の調達にも成功したのである。

以上紹介してきたように、中小企業投資育成は、元従業員、元役員からの株式の買取、安定株主対策、MBO等の局面で活用できるように、安定株主の獲得、株式買取資金の確保等で大きなメリットがある。
しかし、中小企業投資育成は6%の配当を要求するので、第三者割当増資をすると安い株価で株式を発行せざるを得ず、株式の希薄化と配当負担の増大をもたらすデメリットがあることも忘れてはならない。

©2017 青山東京法律事務所.
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